”保活”の救世主?意外に知らない「地域型保育事業」について

”保活”の救世主?意外に知らない「地域型保育事業」について

保育のニュースがもっと身近に。今さら聞けない、保育制度にまつわる素朴なQ&Aを、わかりやすく解説します。
今回のほいQは、認可保育所以外の"保活"の選択肢「地域型保育事業」について。

自治体によっては、そろそろ認可保育所4月入園の申込締め切り時期。
今年の春先に「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログが話題となり、国会でも取り上げられました。
(先日今年の流行語にも選ばれたので、思い出した方も多いかもしれませんね。)
ひとりのお母さんがあげた抗議の声が、待機児童解消に向けて国が大きく動くきっかけになりましたが、来春の待機児童の状況がどうなるのか、気になるところです。

ほいQ1回で認可保育園と無認可保育園について取り上げました。
参考:認可保育園と無認可保育園。保育を語るときに必ず知っておきたいこと

「保育園」の中には「認可保育所」と「認可外保育所」がありますが、いわゆる"保活"をするとき、また保育について語るとき、みなさんは、認可無認可関わらず「大勢の未就学の子どもたちが日中過ごす施設」を想像することが多いかもしれません。
さて、下図を見ると「認可保育所等」の中に、いろいろな保育形態があることがわかります。
今回は、その中でも耳慣れない「地域型保育事業」について見てみたいと思います。

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「地域型保育事業」ってなんだろう?


平成27年度からスタートした「子ども・子育て支援新制度」。(以下、新制度)
「すべての子どもたちが、笑顔で成長していくために。すべての家庭が安心して子育てでき、育てる喜びを感じられるために」というビジョンの元、約70年振りに保育制度が大きく変わりました。
新制度で新しく創設されたのが「地域型保育事業」です。

「地域型保育事業」が対象とする子どもは、待機児童の約9割を占める0~2歳児。
特に期待されたのは下記のような部分です。
◎地域における多様な保育ニーズにきめ細かく対応(例:大都市部の待機児童対策、児童人口減少地域の保育基盤維持)
◎多様な主体が、多様なスペースを活用し、質の高い保育を提供する
◎保育所分園やグループ型小規模保育、へき地保育所、地方単独事業など様々な事業形態からの移行
(認可外保育所や自治体独自の家庭的保育や認証保育所等が、国の認可制度の中に組み込まれることで、補助金をもらえるようになったり、質の確保ができるようになるなど)


「地域型保育事業」に位置づけられているのは、「小規模保育事業」「家庭的保育事業」「事業所内保育事業」「居宅訪問型保育事業」の4つです。

ひとくくりに「地域型保育事業」と言っても、事業それぞれに特色があります。
一つひとつの事業について、違いを見ていきましょう。

■家庭的保育事業
家庭的保育事業は、もともと各自治体が取り組んでいた「家庭的保育」を国の事業の中に位置づけたものです。
保育に従事する家庭的保育者(保育ママ)1人につき、3人の子どもを預かり、保育者の居宅などを利用して、家庭的な雰囲気の下、少人数を対象にきめ細かな保育を実施しています。家庭的保育者は、必ずしも保育士資格を必要としませんが、指定された研修の修了が必要となります。実際は保育士有資格者が従事することも多いです。

NPO法人家庭的保育全国連絡協議会

■小規模保育事業
定員6人以上~19人以下と、比較的小規模な施設型保育事業です。家庭的保育事業に近い環境の下、きめ細かな保育を実施します。
子どもが小さいうちは少人数の家庭的な雰囲気のなかで過ごしたいという要望に応えられる他、定員20名以上の認可保育所に比べると、用地や物件の取得が容易で、待機児童が多い地域にピンポイントで開園できるため、特に都市部は、待機児童対策の切り札として期待されています。

NPO法人全国小規模保育協議会

■事業所内保育事業
主な設置主体は企業。定員は園によってさまざまです。
今までも従業員の福利厚生を目的に、事業所内で保育施設を備えている企業はありましたが、新制度では国の認可事業の中に位置づけられました。
認可を受けるためには、近隣の子どもたちも入園できるように、一定の地域枠を設ける必要がありますので、親御さんがその会社の従業員でなくても地域枠に申し込みができます。

■居宅訪問型保育事業
マンツーマンが基本で、保護者・子どもの自宅を保育者が訪問し、保育を実施します。
保育認定を受けた全ての子どもが利用できる訳ではなく、家庭の諸事情(障害や疾患、夜間勤務による保護者の不在、遠隔地在住など)により、集団保育が困難なお子さんを1対1で保育します。
保育者の資格に関する明確な基準はなく、「保育士または保育士と同等以上の知識や経験があると、市町村長が認める者」とされています。

保育料や保育内容は、認可保育所と違うの?

「地域型保育事業」の保育料は、認定区分と親の所得により自治体が定めます。
認可保育所に通う場合と同じです。
ただ、「事業所内保育事業」の従業員枠の子どもの保育料については、各企業の判断の下、事業主が設定することとしています。(市町村が定める額が上限となるので、認可保育所より高額にはなりません。逆に、企業が福利厚生・人材確保の一環として、従業員利用者の保育料を地域の子どもの保育料よりも安く設定することが可能です。)
保護者の利用の申し込みは、基礎自治体で受け付け、認可保育所と一緒に利用調整を行います。

「地域型保育事業」における保育内容は、「保育所保育指針」に基づくという大前提は一緒ですが、定員は、原則19人以下の小規模なものになります。また、対象年齢は、原則2歳児クラスまで。このことから、手厚さや、きめ細やかさを特色としてあげている事業者が多い印象です。
また、認可保育所と同様、給食が提供されます。(居宅訪問型保育事業は除く)
他にも、保育事故が起こってしまった際は公的保険でカバーされる、自治体の監査があるなどの点は、認可保育所と共通します。
参考:もしも、あなたの保育園で事故が起こったら。【ほいQ】

各事業の認可基準は、国の基準を参考に、基礎自治体が定めます。

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【いずれも子ども・子育て支援新制度ハンドブックより抜粋】

3歳以降はどうするの?

地域型保育事業でお預かりする子どもは0~2歳児。
3歳児以降は連携園に優先的に入園することができる仕組みになっています。
特に、小規模保育事業においては、連携施設を設定することが、事業が認可される要件のひとつとなっています。
しかし、その連携先が見つからないことが事業者の大きな課題となっています。

参考:小規模認可保育所の3割が「連携先みつからない」 - 3歳以降の保育に課題

連携園の役割は下記の2点。
①保育内容の支援
②卒園後の受け皿の役割

「保育内容の支援」の具体例としては、連携園で調理した給食の搬入、連携園の嘱託医による合同健康診断、園庭開放、合同保育、保育者が急病の場合などにおける後方支援などが考えられます。
また、上記②の「卒園後の受け皿」については、3歳児以降(小規模認可保育所を卒園した後)確実な受け皿(転園先)があることが保護者の安心感につながり、園選択において極めて重要であることから、連携施設に求める重要な役割として位置付けています。


連携先は、原則的には事業者が見つけることとされていますが、困難な場合は市町村等基礎自治体が調整しなければなりません。ただ、新制度施行から5年間(平成31年度末まで)は、"経過措置期間"とされ、連携施設設定の要件以外の認可基準を満たしている限りは認可を受けることができます。
ですので、現在認可を受けて運営している事業者の中には、まだ連携先を見つけられていないところもあるようです。

万が一連携園を見つけられない場合の対策として、経過措置期間中に連携施設が設定できず、卒園後の受け皿が見つからない場合には、定員の範囲内であれば、3歳以降も引き続き小規模保育事業を利用することは可能とされています。
また、小規模保育事業においては、国家戦略特区内で3歳以上も受け入れられるように、規制が緩和される見込みです。

参考:政府、小規模保育3歳以上でも 特区で年齢制限撤廃へ

保活の選択肢としての「地域型保育事業」

厚労省の統計によると、平成28年4月1日現在の地域型保育事業の数は全国で3,719件となっています。
家庭的保育事業958件、小規模保育事業2,429件、居宅訪問型保育事業9件、事業所内保育事業323件と、意外に多いことがわかります。

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20161216-2.png厚生労働省ホームページ:地域型保育事業の認可件数(平成28年4月1日現在)http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000092452.html

イマイチ知名度の低い、あまり知られていない(?)「地域型保育事業」ですが、これから”保活”をする場合、知らないのはもったいないかもしれません。
認可保育園だけでなく、「地域型保育事業」も入園希望先のひとつとして選ぶことができますので、ぜひ選択肢のひとつとして考えてみてはいかがでしょうか。

現在、入園申込と内定の仕組みは、自治体によって異なりますが、例としてこんな感じになっています。

第1希望の園の申込数≦募集定員:第1希望の園に内定
第1希望の園の申込数>募集定員:点数の高い順に内定
→ 第2希望 → 第3希望・・・

上記のように「希望園」を優先する選考方法だと、「第1希望をどこにするか」の違いで、同じ点数であっても、倍率によっては入園できない人が出てきてしまいます。
人気園に申し込んだ場合、両親ともフルタイム勤務などで点数が高くても入園できないことがある一方、希望者が少ない園では勤務時間数が少なくても入園できるというケースが出てきます。

特色ある保育を展開している小規模保育所・事業所内保育所や、地域で長く親子を見守っているベテランの家庭的保育者もいますので、「地域型保育事業」の中に、条件にピッタリの園・保育の形が見つかるかもしれません。
それぞれの場所、規模、形態がさまざまで、認可保育所以上に事前の下調べが重要になってきますので、ぜひ入園申し込み前に、実際に足を運んでみてくださいね。

今後、地域型保育事業施設が増えることで、それぞれの家庭環境に合った保育園を選ぶことができ、選択肢が増えることが期待できます。
こうしたさまざまな取り組みのもと、「待機児童」という言葉が早くなくなることを願ってやみません。


家庭的保育事業についてはコチラもぜひご覧ください。
おうちの中で少人数だから、きょうだいのように成長を見守れる。
『保育ママ』のお仕事とは?【保育お仕事大百科】


小規模保育事業についてはコチラから。
おうちのような環境で、赤ちゃんをぎゅっと抱きしめる。
『小規模保育園』のお仕事とは?【保育お仕事大百科】

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