15年かかってわかった、参考書には書いていない障害児の見守り方【インタビュー】

【プロフィール】
林千恵(はやし ちえ)1980年生まれ。
専門学校を卒業後、保育園に就職。主任保育士等を経験した後、認定NPO法人フローレンス障害児訪問保育アニーに保育スーパーバイザーとして転職。保育スタッフの採用・育成、チーム作りを担当している。

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幼稚園が大嫌いだった子どもが保育士に

-保育士になったきっかけについて教えて下さい

保育士になろうと思ったのは、中学3年生くらいだと思います。授業で将来なりたいことを考えた時に、歌も好きだし、小さい子も好きだったから、保育園の先生とかがいいのかな、とばく然と思ったのがきっかけです。

私はもともと幼稚園育ちで、幼稚園に行くのにいつも泣いているような子だったんです。お泊り保育の時も夜大泣きして寝られなかったんですけど、その時先生が添い寝してくれたことを思い出して。いつも怖い先生だったのにお泊り保育の時に優しく接してくれたことが鮮明に残ってたんです。

でもうちの親に言わせれば「あんた幼稚園大嫌いだったのに、なんでその先生になるの」と言われて(笑) なんでと言われた時に、私みたいに幼稚園行きたくないと思っているような子が楽しく通えるようにする存在になりたいと思ったんです。

主語が自分じゃない保育を目指して

-実際に保育士になってみていかがでしたか?

1年目、2年目は必死でしたね。3年目にやっと、こういう風に子どもたちと過ごしていきたいというのが見え始めてきました。

6年目になって、私が一斉に子どもを束ねて動かすのは自分が望んでいる保育なのかなと思いはじめたんです。

1対1で子どもと関わるってどういうことなんだろうとか、もっと子どもを深く知りたいというのがあって、チャイルドマインダーの勉強を始めたりしました。そこで、やっぱり今やっている子どもを一斉に動かすような保育はあんまり好きじゃないなぁと思って、子どもの自主性を重んじる保育園で働いたりしました。

子どもの発達とか、表情から読み取るとかいう方向に目線が行くと、どんどん楽しくなっていきましたね。私がこの子をこうやって動かさなきゃと思うとつまらないんだけど、なんでこの子は今こういうこと考えているのかな、どうしたらこの子はこれに興味を持つようになるのかな、と考えると保育ってすごく楽しくなるんです。

主語が自分じゃないっていうのはすごく大事にしていることですね。

参考書には書いていない障害児の見守り方

-障害のあるお子さんとの出会いは?

保育園で働きはじめた1年目に先輩の下で4歳児の担任をもったんですが、それがダウン症のお子さんでした。

-いきなりダウン症のお子さんを担当されたんですか?

想像もしてなかったですね。3月に研修期間があって、先輩にこの本読んでおいてって5冊くらいどんって渡されて。一応、その本を読んでから保育には臨んでみました。

-保育するにあたって壁は感じましたか?

自分が「こうさせたい」と思うことが子どもに伝わってしまうんです。子どもは本当はもう少し待ってほしいのに、やらせちゃって大泣きしちゃって。私では収拾がつかなくなって、他の先生がなだめてくれることはしょっちゅうありました。

見守るってなんだろうって思いました。まっさらな状態で子どもに向き合って、何もない状態で見守りなさいって言われても、見守りかげんがわからなくて。

自分がなにかしなきゃと思うほど表情は固くなるし、言葉も荒くなるし、子どは敏感にそれを読み取って、まったく反対のことをするから余計イライラするというか。そこから、その子が今何を思っているのかなと考えられるようになるまで時間はかかりました。だって参考書に書いてないんですもん(笑)

でも、すごく表情が豊かなお子さんだったんです。ご家族も、感謝しながら保育園に通っている感じでした。だから次第に愛着関係ができて、信頼関係が生まれて。次の年に卒園になったんですが、その時は感慨深いものがありました。

-その他に障害児との関わりはあったんでしょうか?

たくさんあります。自閉症の子もいましたし、主任として入った保育園では先天性ミオパチーといって筋肉が萎縮してしまう病気のお子さんも担当しました。

-障害児保育については、ずっと問題意識をもっていたんでしょうか

障害があって保育園に入園するお子さんは、発達障害のお子さんが多いんです。発達障害の子が過ごしやすい環境とはどういうものだろうかとか、クラスの中でその子とどういう風に関わったらいいかというのが、毎日、クラスごとに出てくるんですね。なので大きな「障害児保育問題」というよりは、実践的なことの方が大きかったです。

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15年目で蘇ってきた施設実習の苦い思い出

-障害児訪問保育アニーとの出会いはなんだったんでしょうか?

保育園に勤めていたのが15年になります。保育にゴールはないんですが、子どもに寄り添った保育をしたい、それが私の正しいと思っている保育です。そういう保育を今までしてきたんですが、ふと、自分がやってきた保育を振り返ったときに、障害のあるお子さんとちゃんと密に関われていたのかなっていうところが、まずポーンと出てきたんです。

昔、実習で肢体不自由児の施設に2週間行った時に、全く手も足も出ませんでした。幼稚園とか保育園での実習は自分の中で楽しかったなという思い出ですが、施設実習だけはやりきれない感じで。勉強不足もいいところでした。

-それは学生の時の実習を思い出したんですか?

そうです。「ああ、施設実習あったじゃん」と苦い思い出が蘇ってきて、実習ノートを見返したら、「もうなにこれ!」っていうくらいひどかったんです(笑)

自分が15年やってきて、昔の実習で自分は何をしてたんだろうとふと考えちゃったんです。施設実習の先生の関わりを鮮明に覚えていて、私もあんな風にもっと知識をつけて、子ども一人ひとりと向き合えるようになりたいと改めて思いました。それを今から勉強しなおして、密に関わってみたいと思っていて。

そんな中偶然、フローレンスの障害児訪問保育アニー(以下、アニー)の存在を知ったんです。事業のビジョンを見た時にドキッとしました。「障害のある子どもたちが、自らの肯定感、未来への希望を持てる社会。障害のある子の親たちが、子育てと仕事を共に楽しめる社会」ということを掲げていて。

私も、「一人のお子さんにもっと丁寧に向き合いたい」「障害があっても、子どもたちが様々な刺激の中で楽しい経験を積み、子どもを通し、親御さんが笑顔になれる場をつくりたい」と思っていたので、理想にぴったりだと思い入社を決めました。

お子さんと居る8時間はあっという間に過ぎていく

-担当しているお子さんの1日のスケジュールを教えてください

9時に保育スタッフがおうちに到着します。水分補給のために麦茶を注入してから簡単な朝の会をやります。それが終わったら交流保育のために保育園に向かいます。

お散歩に行ったり、室内でマットで遊ばせてもらったり、おままごとをしたり、保育園の活動に参加させてもらっています。帰って来るとお昼の注入の時間です。

お昼寝して起きると15時の注入があって、お母さんが帰ってくるのを待ちます。8時間は本当にあっという間に過ぎていきます。

-1対1保育をするにあたって戸惑いはありましたか?

最初は緊張しました。家に他の人がいるのはご家族にとってどういう気持ちなんだろうかと、常に考えていたかもしれないです。慣らし保育中はずっとお母さんがつきっきりで、もちろん私も緊張するんですが、お母さんもきっと緊張してるんだろうなと思うと、インターホンを押すのもドキドキしました。

それに他の人の目が無いというのは、自分のいいようにできてしまう怖さがあったので、すごく責任感が必要だと思いました。誰かが見ている見ていないに関わらず、この子にとって何が大事かを常に考えていないと、サボろうと思えばサボれてしまうので。

幸い看護師さんが入ってくれたり、巡回の保育スタッフが来たりするので、実質ひとりきりになる時間は思っていたより少なかったですね。

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保育の目線が起こした変化

-林さんが保育に入られて親御さんからはどんな反応がありましたか?

私が保育に入った時点で、リハビリで座る練習をしていたんです。だからオムツ替えの時も、寝ながらではなく、座ってやりました。でもお母さんから「座って履かせたの初めてだ」って言われたんです。

今まで看護師さんもPT(理学療法士)さんも、お母さんの中でも、寝転んだままおむつを履かせるのが普通だったから、座らせてやるという発想がなかったそうで。そういう保育の目線が入るのは嬉しいって言ってくださいました。

-保育に来てくれる嬉しさは親御さんにとって大きいものなんでしょうか?

子どもは、この人が来たら遊んでくれると思っていて、そういう意欲的な気持ちがこの子にできたのは嬉しいとお母さんはおっしゃっていました何もすることがないと寝てしまうような子だったんですが、保育が入ることによって午前中の活動時間は寝ないで過ごせるようになったり。そういうことが大事かなと思います。

-アニーでのやりがいはどんなところにありますか

子どもとの関係は密になります。そうするとご家族との関係も普通の保育園よりも親密度は高くなっていきます。紆余曲折がありながら1年間やっていくことで、家族の中で「この子の先生はこの人ね」という認識ができるのは嬉しいですね。

-保育をする上でこだわりはありますか?

主語が自分にならないようにしています。自分はあくまでもこの子のことを一番わかってあげられる存在でいようと思うから、この子が今どういう風にしたいのか、どういうことを楽しいと感じてるのかをまずは考えます。それは保育園時代からずっと変わらずですね。

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色眼鏡をかけない。同じ子どもたちとしての会話

-なにか印象に残ってるエピソードはありますか?

交流保育でのエピソードなんですが、アニーのお子さんが健常のお子さんの保育園に行くと、療育先では味わえない刺激、子ども同士で分かち合える空気をすべて吸収します。子どもたちにとってはそこが楽しかっただろうなって思えるのは意義があることだと思います。

保育園のお子さんがお腹の胃ろうに気づいた時は、初めて見るものだからすごかったんですよ。みんなに「これなあに」って囲まれちゃって。口で説明しても難しいだろうなとは思ったんですが、「〇〇ちゃんはお口が上手じゃないんだよ。だからここからご飯食べるんだよ」って言うと「ふーん」って言ってて。

大人は障害だからという変な枠にとらわれてしまうけど、子どもたちは「これなあに」と自然に聞いてくるんです。そこでご飯食べるんだと思ったら、この子はそういう子なんだって思えるのはすごいですよね。色眼鏡でみないというか。それは保育園の先生たちが、普段から子どもたちに色眼鏡でみないで接しているからだろうなと思いました。

疲れていても話したいと思えるチームへ

-これからの目標について教えてください

アニーは施設型ではなく1対1の訪問型なので、毎日個々の責任のなかで業務を行うのですが、その中でスタッフ同士の絆や仲間意識をうまく作っていかなきゃいけないなとより強く思っています。

保育のあとは疲れてるから話し合いやめよう、ではなく、疲れてるけどこの人となら話したいと思えるようなチームワーク作りをしたいです。

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一歩踏み出して自分で開拓して欲しい

-障害児保育に興味を持つ人へのメッセージをお願いします

障害児保育では、度胸があったり、ちょっとしたことでは動揺しなかったり、いろんなことが柔軟に考えられたりすることが必要になってきます。そんな日もあるよねと思いながらやっていける人じゃないと難しいと思いますね。

-障害児の知識は必要ですか?

障害児の知識はあるにこしたことはないですが、なくても子どもから学んだり、他の人から学ぶ機会も多いです。興味があれば第一歩を踏み出してみて、そこから自分で開拓してみたらいいのかなと思います。

親御さんが思い描く生き方の手助けがしたい

-アニーの社会的意義はどのようなものだと感じていますか?

アニーにきて、自分たちが社会の役に立っていると強く感じるようになりました。保育園の頃は、目の前の子どもや親御さんへの関わりがメインだったので、大きく「社会」という意識は小さかったかもしれません。

障害児保育をやって、保育園の時には知らなかった人に出会い、知らない社会を見ました。自治体に掛け合っても門前払いされることもあるという親御さんの話を聞くと驚きと同時に、不条理さを身に染みて感じます。

多くの親御さんが抱えている思いはひとりひとり違います。アニーに預けようかどうしようかと迷ったり悩んだり・・・たくさんの葛藤を乗り越えてアニー保育を利用したいと申し込みされます。

その中でも「仕事と両立できるのか?」「自分以外の人に預けて大丈夫なのだろうか」など、その都度悩み葛藤されているのだと感じます。

親御さんが思い描いている生き方ができるような手助けをし、一緒にお子さんの成長を喜びあえる存在になりたいと思っています。

【事業・団体概要】
障害児訪問保育アニー
医療的ケア児および重症心身障害児のための居宅訪問型保育。利用者の自宅を保育スタッフや看護師が直接訪問し、医療的ケアも対応した長時間保育(最長8時間)を自宅という子どもにとって慣れた環境で行う。療育施設への送迎も行っている。

認定NPO法人フローレンス
2004年より子どもが病気の際に保護者の代わりに保育を行う病児保育事業を開始。以後、少人数の保育園「おうち保育園」の運営、障害児専門の保育園や訪問保育を行う障害児保育事業、孤独な子育て問題を解消するためのコミュニティ創出事業、子どもの虐待死を防ぐ赤ちゃん縁組事業をなど、「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」をミッションに、事業を展開している。

INFORMATION

-障害児訪問保育アニーのスタッフを募集しています-
採用情報 http://annie-hoiku.jp/recruiting

-「訪問型障害児保育」のお仕事を詳しくみる-
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著者プロフィール

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スゴいい保育編集部
「スゴいい保育」を通じて保育という仕事の素晴らしさを伝えていくことにチャレンジするチーム。日本中の色んな「スゴい!」「いい!」保育を日々探し、みなさんに紹介します。

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