「保育士さんって子どもと遊んでいるだけ?」そんな思いの裏に、保育の真髄があった。

「保育士さんって子どもと遊んでいるだけ?」そんな思いの裏に、保育の真髄があった。

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シリーズ「シンカする保育×安全」の記事の一覧 
[第1回はこちら▶保育士は言わない「危ないから遊んじゃダメ!」という一言。安全と豊かな保育を両立する方法論とは。] 


1〜4歳の子どもの死亡事故(交通事故を除く)は112件。対して、報告に上がった保育施設における死亡事故は17件です(平成26年)。一概には言えませんが、保育園では子ども達の安全に、細心の注意が払われていることが伺えます。今後、さらに安全で、のびやかな保育にシンカさせるためにはどうすればいいのか。保育におけるリスクマネジメントのプロ、産業保育エデュケーショナル代表取締役の遠藤登さんに聞いていきます。

保育者は、「安全な保育」を求めている訳ではなかった。

遠藤:私は救命救急講習の講師をつとめていますが、保育者から、安全を意識するほど、子どもたちをのびのびと遊ばせてあげられなくなる・・・」、という悩みをよく聞きます。救命救急は、事故が起きた時のためのスキルです。しかし、本当に保育者が知りたいのは、「安全で、子どもたちが伸びやかに過ごせるようにするためのスキル」だったんです。

そこでまず、応急処置については、(1)深刻な事故に繋がらないようにする。そして、(2)応急処置を丁寧に行うことで、子ども達が「遊びに対しての恐怖心」を抱かず、元気にまた遊べるようするに指導しています。そんな保育のリスクマネジメントを、体系づけなくては、と考えました。

―まさにそうだな、と思います。私もある保育園で実習をしましたが、子ども達の安全を守るために”ガチガチ”で、子ども達が本当にのびのび、楽しく遊べているかな?と疑問に感じたことがあります。

遠藤:”ガチガチ”の保育も、とても大切です。しかしながら、環境設定の方法や、目の配り方ひとつで、子どもたちに「"ガチガチ"であることを感じさせない」ことが出来ます。そして実現するためには、高度な専門性が問われます。さらに、第三者に、その"ガチガチ"を感じさせず、「子どもたちは自由に遊んでいて、先生も子どものように無邪気に遊んでいたね」と、思ってもらえるようにするには、さらに難易度が上がります。

―なるほど、「保育士さんが子ども達と無邪気に遊んでいる」と勘違いされる理由かもしれませんね。

そして、自然にのびやかな保育を実現出来る人もいますが、一つ一つ教えてもらって…、それこそ"ガチガチ"の保育を経て、学んでいく人がいます。私自身も、一つ一つ教えてもらいながら進んでいくタイプでした。

特に「保育×安全」という領域は、まだまだ学問として確立されていないので、ひとりで安全な保育を実現することは困難です。やみくもに、「"ガチガチ"な保育」、となってしまうと保育者にとってもつまらないし、その保育は、子ども達にとってもつまらないですよね。だからこそ、「安全に、そして子どもたちが伸びやかに過ごせる保育」を体系立ててお伝えする必要があります。

「もう事故は起きない」では通用しない保育のリスクマネジメント。

―今の保育現場では、リスクマネジメントはどのように扱われていますか?

遠藤:今は、事故後の改善案が、「マニュアルに一文加わっただけ」、になることもしばしばです。事故が起きた後に、PDCAサイクルを回す、という考え方が保育現場ではまだまだ不十分です。

PDCAサイクルとは: Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の繰り返し、継続的に改善していくこと。

分析をしても、事故を起こさないための分析・改善で終わってしまいがちなんです。保育者は、「同じ事故が起きないようにする」だけではなく、「子どもたちにとっての保育をよりよくする」ことまで、行う必要があります。ここまで出来て、はじめてPDCAサイクルが回ったといえます。

例えば、「A君がB君に噛み付いた」、という事例があったとしましょう。対策として、園児がイライラして噛み付いたのだから、AくんとBくんを離し、ぴったりと保育者がつくようにしました。この対策も間違ってはいません。

―それだけでは不足しているのですか?

「Aくんがイラライラした気持にならないために、どんな保育を作っていくか」、という対策をして、保育のPDCAサイクルが回った、と言えます。そのためには、「Aくんは、なぜイライラしたのか?」を反映し、「保育を改善する」ための分析が必要になります。

「保育方針」をスタッフで深く理解し、リスクを減らそう。

―事故が起きない保育を行うためには、どうすればよいでしょうか?

遠藤:皆さん、感覚的に理解し、一生懸命やっています。ただ、細かい所を落とし込み切れていません事故は、小さなリスクが重なり起きます。リスクを小さく、少なくすることが出来れば、事故が起きても、結果も小さくすることが出来ます。

そして、リスクの中には、「教育効果を考えると、しょうがないリスク」があります。例えば、「園庭で子どもたちを駆け回らせたい」、という保育者の想いに対して、「子どもが転ぶ」、というリスクは必ずあります。でも、それはどうしようもありませんよね?その小さな要素をいかに小さく、少なく出来るかが大切です。

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―事故に至る要素を、小さく、少なくしていくためにはどうすればよいですか?

例えば、「自然の中でのびのび生きる」という保育方針の園があるとしましょう。保育士が、体育館と、砂利ばかりの場所の、どちらで遊ぶか迷っているとしましょう。砂利の上で子どもたちが走り回ると、転んだ時に大怪我に繋がるリスクがありますよね。でも、体育館は「自然でのびのび」なのか・・・と迷っています。

―このリスクとのびやかな保育を両立するには・・・?

はい、砂利の上で走らせるのか?と検討する時に重要になるのが、保育方針です。「自然の中でのびのび生きる」という保育方針は、砂利の上で走らせる方針なのか、それとも、自然ではないけれど、のびのび遊ぶことが出来る体育館を選ぶのか。それは保育方針を、個々が深く咀嚼出来ているかにかかっています

まず、保育方針についてスタッフの間で深く認識を合わせましょう。そして、リスクとのバランスをとり、よりよく保育方針を表せているかを、スタッフひとりひとりが判断していけるかどうかが、安全でのびやかな保育に繋がっていきます。

*第3回に続く

(文責:山崎岳)


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スゴいい保育編集部
「スゴいい保育」を通じて保育という仕事の素晴らしさを伝えていくことにチャレンジするチーム。日本中の色んな「スゴい!」「いい!」保育を日々探し、みなさんに紹介します。

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