難しそうと言われるけれど、「できた」ときの喜びは大きい!【障害児保育園スタッフインタビュー】

難しそうと言われるけれど、「できた」ときの喜びは大きい!【障害児保育園スタッフインタビュー】

【プロフィール】
湯川未緒 短大保育科を卒業後、公立の保育園で2年勤務、その後通所施設で4年勤務。海外での生活を経て、2014年に認定NPO法人フローレンスに入社。障害児保育園ヘレン(杉並区荻窪)で勤務。小さいころアメリカで5年生活。ワーキングホリデー中に児童英語も学ぶ。

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障害児にとっても保育は欠かせない。だからこの仕事を選んだ

-これまでの仕事について教えて下さい。

学校を卒業後、公立保育園で2年間非常勤の職員として働きました。1年目で2歳児の担任になりましたが、その中で発達に遅れのあるお子さんを担当したのが、最初の障害児保育の経験になります。

その次は、公立の障害児の通所施設で4年間非常勤職員として働きました。ここの施設は、1歳半~年長のお子さんが通っていました。昼間に週3~5回通うお子さんや、日中は保育園や幼稚園に通い、午後に週1で2時間程度通うお子さんなどさまざまな利用者がいました。

障害の程度や肢体不自由、知的障害などさまざまで、日中のクラス、午後のクラスを担当し、日々の保育のほかに支援計画書の作成、保護者対応など行っていました。

その後、一旦ワーキングホリデー制度を利用して海外で生活しました。1年3ヶ月です。ニュージーランドに行き、児童英語を学ぶ機会もあり、2週間ですが現地の保育園に行く経験もありました。

帰国後は、4年間勤務した通所施設から声がかかり、パートとして3ヶ月働きました。小さいころに海外で暮らして英語に慣れ親しんでいたこともあり、ワーキングホリデー後、児童英語を仕事とするか障害児保育かで迷いました。

どちらが生活に絶対必要かと考えると、児童英語は生活にプラスになるがなくても困らない。でも、障害児保育は、障害児にとっては絶対欠かせないというのが決め手で、障害児保育の仕事を選びました。

その中で、保育の仕事の派遣登録をしていた会社から、フローレンスの障害児保育園ヘレンのお仕事を紹介され、これだ!と思い、今にいたります。

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障害児の成長、発達は千差万別。そこが興味深い

-障害児保育をしたい、障害児と関わりつづけたいというキッカケとなるできごとがあったのでしょうか?

最初に勤めた公立保育園でのエピソードです。

担当したクラスに、発達に遅れのあるお子さんがいました。あるとき、部屋から移動する際に、上履きを脱ぐ手伝いをしようと、手を出したところ「ガブっ」と手の甲を噛みつかれました。

あまりにも突然で何が起こったかわからず、びっくりしてしまいました。お子さんは、言葉を発したり、泣いたり叫んだりという行為はなかったのですが、「何が嫌だったんだろうか」「何を伝えたかったの」と考えさせられました。

お子さんがなんでこういう行為をするのかな、と考え、それに対してどう関わったらよいのかと考えて、子どもと接する部分に保育のやりがいを感じます

「一緒に子育てをしているんだ」という親御さんとの信頼関係を作りあげる

-障害児保育は保護者の方との関係のあり方も、健常児保育とは異なると思います。関係性の作り方で工夫していた点などありますか?

2つめに勤務した通所施設は、母子通所の施設でした。母子が一緒、子が単独というケースもあり様々でした。

常に子どもたち全員のお母さんがいるわけではないですが、保育士と子どもだけという一般の保育園とは違いました。いわば、毎日保育参観があるわけで、とても緊張感がありました。自分の言動一つ一つがみられています。声掛けや言葉の使い方一つ一つ、それぞれ考えて行う点で鍛えられました。

また、毎日の活動の意味をしっかり説明することは当然ですが、親御さんのことや気持ちを理解するのも大事です。とにかく親御さんの話を一生懸命聞いて、一緒に子育てをしているんだという共通理解をもって関係性を作りあげていました。

保護者支援といっても、親御さんの代わりになんでもやればいいとは考えていません。

例えば、園に到着すると荷物を全部持ったり、子どもさんをすぐ抱っこしようとすることもあります。でも生活の中で保育者がいない場面も多々あります。親御さん1人で移動する場面の中で、親御さんの介助方法の負担を減らせるような方法をアドバイスすることも大事だと思います。

今勤務している障害児保育園ヘレンは、母子通所はないので、基本は送迎時のコミュニケーションです。送迎時の短い時間や連絡帳でのやり取りなどで、時間をかけながら親御さんの気持ちを汲み取って関係性を作っています。

お子さんも親御さんも嬉しいとわかると幸せ!

-どんなときに喜びや嬉しさを感じますか。

お子さんも親も嬉しいという表情が見られるときに幸せを感じます。子どもだけ楽しくて、親御さんが納得してない状況はダメだし、逆もそう。親御さんの要望をすべて受け入れていても、子どもにとって幸せではない場合、よいとはいえないと思います。

それからお子さんは、自分の子ではありません。関わる中で私たち保育士が満足しているだけではダメで、それは自己満足にしか過ぎないんです。親子の関係がありきなので、親御さんと保育士との間で、お子さんへの接し方について共通理解を得て一緒に見守ることが大事だと思います。

スモールステップの変化から「できた」喜びを1つ1つみつけてあげられる

-湯川さんにとってのやりがいはなんですか?

発達がゆっくりな障害児の保育では、一つのことに時間がかかることが多いです。

けれどゆっくり関われる分、ちょっとした変化、スモールステップごとにほめてあげられるという喜びがあります。健常発達ではなんとなくできるようになっていくようなことも、時間をかけ変化が見えてきた時の喜びは、言葉にできないほどとても大きいです。

こういう「できた」という喜びを1つ1つみつけてあげられるのがやりがいです。

そのためには、毎日のできることや到達点は何かを考えること、どうアプローチするかを考え、またじっくり観察するチカラが必要だなと思っています。

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幼稚園や保育園での軽度の障害のお子さんの受け入れは増えているが、まだ課題も

-以前に比べて障害児保育について社会的には理解がすすんできました。社会の変化を感じますか?

幼稚園や保育園での受け入れが多くなっているのかなと思います。通所施設の午後のクラスの需要が増えていたので、障害児への理解も広がり、そういう部分からも変化は感じています。

今勤務している障害児保育園ヘレンに通うお子さんの中には、医療ケアが必要だけど、知的発達は健常発達に近いお子さんもいます。医療ケアが必要というだけで、健常児と一緒の保育園に通えないのは悲しい。保育園には看護師がいる場合が多いので、もっと受け入れてもらえるといいのになと思います。

難しそうと言われるけれど、「できた」ときの喜びは大きい!

-障害児保育を学んでいる、施設で実習したという学生さんも増えていますが、そんな方に伝えたいことはありますか?

「障害児保育の仕事をしている」というと「すごいね」「難しそう」と言われます。

でも、ゆっくりと成長を見守る仕事で、毎日毎日些細な変化や成長を見つけられるのが障害児保育ならではの魅力です。ゆっくりな分、変化が見えにくい印象はあるのだと思いますが、できた時の喜びは大きいです。

例えば、誰でも、簡単にできたことはすぐ忘れてしまったり、終わり、となってしまうけれど、達成するまでに時間がかかったり、難しいことは達成するまでの過程で得られるものがあったり、できた時の喜びは大きいですよね。

だから「難しい」だけに目を向けるのは残念かなと思います。1対1で向き合うことが多く、子どもの個性をじっくり知って関われるのが魅力です。

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(湯川さんに取って保育とはエネルギー)

目の前に支援を必要としている子どもたちを全力で支援する!

-これからやりたい!こうなるとよいなと思うことってなんですか?

障害児保育の大事さを広めたり、社会に働きかけるのは(フローレンスの)本部の仕事かなと思います。

ヘレンで働く私たちは、目の前に支援を必要としている子どもたちを全力で支援していきたい。社会がどんな状況であっても、目の前のお子さんをみるのが大事なので、そこは変わらずにいたいです。

また、ヘレンは障害児のみをお預かりしていますが、ヘレンで作っていけるのは少数の集団保育。ここでできるベストが必ずしも子どもたちにとってのベストではないと思っています。ヘレンを卒園後、学校や社会…、ヘレンよりも大きい集団で受ける刺激は多く大きいはず。

「ヘレンで楽しく過ごす」ことは大事ですが、「へレンで楽しく過ごせているからいいよね」ではない。ここで楽しければよいではなく、子どもたちのその先を考えていくという広い視点が大事だなと思います。

子どもたちの当たり前を受け入れる感覚にハッとした

-ヘレンで印象的なエピソードはありましたか?

最近、印象に残っているヘレンであったエピソードなんですけど、そらぐみ(重症心身障害児以外クラス)で歩けないお子さんが歩行器を使えるといいねということから、歩行器を導入することになりました。

その際に、ほかの園児が「自分も使いたいな」「いいな」というかもしれないからどういうふうにしよう、取り合いになったら心配だ…、と導入方法についてスタッフ間であれこれ話し合いました。

色々話し合った結果、別室で歩行器に乗せてから登場させようと考え、ある日、その園児が歩行器で登場!

ほかの園児たちは特にうらやましがるわけでもなく「◎◎ちゃんが歩いてる~!」と感動したような反応をしていました。そして、歩行器に乗りたがる子は誰もいなかったです。

ヘレンの子どもたちの移動方法は様々です。歩ける歩けない、と考えがちな大人の感覚と比べ、1人で歩く、ハイハイする、歩行器で歩く、抱っこされて歩くなど、一人ひとりのありのままを当たり前として、素直に受け入れる子どもたちの感覚に感心しました。

健常児と障害児、と分けているのは、社会や大人の都合であって子どもにとっては関係のないことです。小さい頃から色々な子に囲まれて過ごすのは誰にとっても良い経験なので、そういう社会になるとよいなと思いました。

【団体概要】
日本初の障害児専門の保育園「障害児保育園ヘレン」
http://helen-hoiku.jp/
認定NPO法人フローレンスが2014年に開園した日本初の障害児と医療的ケア(喀痰吸引、胃ろう等)が必要な児童を長時間預かる保育園。保護者の就労を前提とした長時間保育、医療的ケア児の受け入れ、「遊び」を起点とした療育という3つの特徴がある。

認定NPO法人フローレンス
2004年より子どもが病気の際に保護者の代わりに保育を行う病児保育事業を開始。以後、少人数の保育園「おうち保育園」の運営、障害児専門の保育園や訪問保育を行う障害児保育事業、孤独な子育て問題を解消するためのコミュニティ創出事業、子どもの虐待死を防ぐ赤ちゃん縁組事業をなど、「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」をミッションに、事業を展開している。

INFORMATION

-障害児保育園ヘレンのスタッフを募集していますー
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スゴいい保育編集部
「スゴいい保育」を通じて保育という仕事の素晴らしさを伝えていくことにチャレンジするチーム。日本中の色んな「スゴい!」「いい!」保育を日々探し、みなさんに紹介します。

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