“日本で初めて”は大変だけど、チームで乗り越えていきたい ー「障害児保育」という新しい当たり前を目指す、ヘレン園長の座談会【前編】

“日本で初めて”は大変だけど、チームで乗り越えていきたい ー「障害児保育」という新しい当たり前を目指す、ヘレン園長の座談会【前編】

障害児保育園ヘレンは、認定NPO法人フローレンスが運営する、重度の障害や医療的ケアのある子どもたちが通える日本初の保育園です。

2014年9月に杉並区荻窪に開園したヘレンですが、2016年7月には豊島区巣鴨に2園目、2017年2月には世田谷区経堂に3園目が開園しました。

今回は荻窪園、すがも園の園長2人にお話を伺いました。

通常の保育園とは違い、保育スタッフだけでなく、看護師、リハビリスタッフなど、様々な職種のスタッフでチームを組み、子どもたちにとっての最善の保育を目指してきたと語る園長の2人。

「大変なところももちろんあるけれど……」と前置きを挟みつつ、ヘレンだからこその喜びや楽しさ、ヘレンならではの仕事のやりがいについて語ってくれました。

また進行役として、事務局スタッフも交え、ヘレンはどういうところか、どんな人が活躍できるのかなどなど、様々な視点からヘレンを考えてみました。

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プロフィール

左)ヘレン荻窪園長・遠藤 愛(ニックネーム:愛さん)
知的障害児の通園施設で支援員を経て、日本初の障害児保育園ヘレンという新天地に飛び込む。
バイクでツーリングがもっからの休日の楽しみ方。夏休みの9日間で北海道にソロツーリングに行く程のバイク好き。最近は、たくさんの荷物を乗せた「キャンプツーリング」にハマっている。

中央)採用担当・西浦もと子(ニックネーム:もと子さん)
元々は保育士として活躍。その後は事務職に転向。フローレンスでは採用と研修担当。
実は乗り鉄。春・夏・冬に期間限定で発売される青春18切符を利用し、全国のJRの普通列車にのって遠方に旅をするのが大好き。

右)ヘレンすがも園長・木村俊行(ニックネーム:きむ兄)
元オフィス機器メーカーのサラリーマン。子どもと関わる仕事がしたいということで一念発起し、フローレンスが運営する「おうち保育園」の保育スタッフに転職。ロックを聴くのも演奏するのも好きで、バンド活動が趣味。担当はギター。

お母さんが仕事をしないのは当たり前だと思っていた

西浦:まずはフローレンスに入社したきっかけ、今のお仕事について教えてください。

遠藤:私は前職では知的障害児の通園施設で支援員をしていました。障害のあるお子さんを朝の10:00から14:30までお預かりする仕事です。

転職活動をしていたとき、検索で「障害児の保育園」を見つけました。
前職では「障害児の保育園」という発想がなかったので、お母さんたちから「お仕事をしたいのでもっと長い時間預かっていただけませんか?」と相談を受けるたびに「うちは14:30までなんです」って当たり前のように断っていました。

でも、確かにお母さんが仕事をすることは、お母さんたちにとってもご家族にとっても大切なことなのに、断っていたのはよかったんだろうかと思ったんですね。

就労支援をする、お母さんたちや家族を支えることにチャレンジしようと思ってフローレンスに転職しました。

木村:2016年4月からヘレンに入りましたが、それまではフローレンスが運営しているおうち保育園のスタッフとして保育の現場にいました。さらにその前はというとバリバリの営業マンでして、終電に間に合わないような毎日を送っていました。

子どもが産まれても、毎朝保育園に送って夜中に帰ってくる生活だったんですね。
そうしたら、だんだん保育園で見送られて仕事に行くより、保育園で子どもと過ごす時間を送りたい気持ちが強くなってきて。

私自身子ども好きなこともあり、「見送られるより、保育園の方がいいじゃん!」って(笑)保育の仕事を検索していたら、フローレンスに出会い、今に至ります。

「荻窪」は、うみ組とそら組2つのクラス。「すがも」は、インクルーシブ保育が特徴

西浦:同じ障害児保育園ヘレンではありますが、すがも園、荻窪園はそれぞれ異なる特徴がありますよね。それぞれどんな園か、教えてください。

遠藤:荻窪園は重症心身障害児のクラス「うみ組」(定員5名)とそれ以外の障害児のクラス「そら組」(定員10名)に分かれています。

保育室もそれぞれあるので、クラスごとに保育のねらいを分けて保育をしています。親子交流会など、大きなイベントでは、一緒になって活動もします。

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木村:すがも園では定員5名の重症心身障害のあるお子さんをお預かりしています。

「そら組」はありませんが、すがもの一番の特徴は、同じフローレンスが運営する小規模認可保育園「おうち保育園」が同じ建物内にあるところですね。
扉を開ければ目の前がおうち保育園で、2つの施設が同じ場所にあるというのは日本で初の試みです。

ヘレンの子どもたちがおうち保育園のプールに遊びに行って、おうち保育園の子どもたちにお水をかけてもらったり、ボールを貸してもらったりという交流が日常的に生まれる環境です。

ヘレンは「保育園」という名前をつけた「障害福祉の通所施設」

西浦:荻窪園は開園から2年ですね。(※編集注:インタビューは2016年9月)

開園当初は障害児の保育という確立された概念がない中でのスタートでしたが、
この2年でどのように保育の中身や方針が変わりましたか?

遠藤:ヘレンは「保育園」という名前がついていますが、実はそうではなく、障害福祉サービスの中の通所施設なんです。

へレンは保育所*の機能も持っているよ、ということで、あえて「保育園」という名前をつけています。
(*いわゆる認可・認可外とかで言われる保育園の正式名称は「保育所」。「保育園」は通称である)

ですので、全員が保育士ではないところが一般の保育園との違いであり、面白さだと思います。

保育園を知っている保育士もいれば、療育の支援をしてきた児童指導員もいます。
また病院や保育園で勤務してきた看護師、リハビリを専門とするスタッフなど、いろんな経験や専門性を持っているスタッフが集まっています。

そんなみんなの経験や専門性をベースに、今の子どもたち、今のヘレンでベストな環境を創るためにはどうしたらいいのかを話し合いながら、日々保育を組み立ててきました。

でも、最初は「誰に合わせるのか」「どこに合わせるのか」保育の軸やカタチが定まらない時期も長かったです。子どもたちにどういう支援をしたらいいのかという保育の軸が定まってきたのは、日々の保育を通じて子どもたちや集団がわかってきてからですね。

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お子さんだけじゃない、親御さん支援もヘレンの役割

西浦:すがも園はいかがですか?7月に開園してから、どんな変化がみられましたか?

木村:頻繁に行っているおうち保育園との交流を通じて、子ども自身の表情が豊かになってイキイキとしてきたことを感じています。また、何よりも預けている親御さんの表情や会話の内容が、慣らし保育の頃よりもどんどん明るくなってきたことが印象的です。

改めて、働きたい親御さんを支援しているんだなぁ、貢献しているんだなぁと実感をしています。

スタッフの強みや専門性を活かしたチームでの保育

西浦:ステキですね!

先ほど愛さんから様々な職種のスタッフが集まって保育の軸を定めていったというお話がありました。

専門性の異なるメンバーをまとめ上げることはご苦労も多かったことと思いますが、工夫されたことや、実際のところどんな雰囲気なのか、教えてください。

遠藤:それぞれスタッフが経験してきたことや考え方がありますよね。それを今のヘレンの子どもたちに最善のカタチにしていくためのすり合わせが難しいです。

みんなの経験も意見も決して間違いではないと思うので、どこをチョイスするのかというのがすごく難しいなと、今までも、今も思っていますね。

以前は、例えば「保育のことを全然わかっていない!」「安全を確保して欲しい!」など、それぞれの立場で意見の違いを納得ができない場面がよくありました。

今は、みんなの専門性・経験をそれぞれが理解して、例えば保育士が「支援の考え方ってそうなんだ」と理解したり、「保育のことだったらあの人に聞こう」「わからないところはリハビリの先生に聞こう」とか、うまくみんなの専門性を引き出して、保育を作れるようになってきているので、いい形になってきているんじゃないかなと感じています。

木村:すがもも保育士と看護師、リハビリの先生がいるんですが、一人の保育士は看護師資格ももっていたり病院勤務の経験があったりするんですね。

なので、看護寄りになりがちではあるんですが、そういう場面では、看護師が「保育はどうする?」と保育士の専門性を尊重しながらディスカッションするなどうまくキャッチボールをできていて、皆が子どもの方を向いていることを感じています。

むしろ私はそのやりとりを見ながら、学ばせてもらっている感じがありますね(笑)

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残業や持ち帰りの仕事は禁止!有給休暇を取りやすくしたら、ケニアにキリンを見に行ったスタッフも。

西浦:なるほど。ちなみに、その子どもたちにとっての最善の保育ができる「環境づくり」という視点で、心がけていることはありますか?

遠藤:私は「保育園」で働くのは初めてなんです。前職では勤務時間内に子どもがいない時間があったんですね。

保育園には、当たり前ですが勤務時間にずっと子どもがいます。
特にヘレンにいる子たちは、状態を常に観察しなければいけない子どもたちも多いので、スタッフの精神的負担が大きいなと感じています。

勤務時間内はずっと気を張っていなければならない分、園を出たら、気持ちを切り替えてリフレッシュできる環境を整えたいですね。ダラダラと残業することもないですし、持ち帰りの仕事はブブー!禁止です!

例えばスタッフが家で仕事をしてきたときは褒めるのではなく、持ち帰らないとできないことを課題視して、業務時間で仕事を終えられるようにする方法を一緒に考えています。

よく、保育や福祉の仕事は有休が取れないと言われていますが、いい保育をするためにも有休は絶対取ってもらいたいと話しています。私自身、率先して休みをとって、みんなにも休むことを促しています。

休暇申請があったときは、体制を整えてみんなが気持よく休みを取れるようにしているので、有給消化率はかなりいいですよ。今、有休を残している人はいません。
旅行の好きな看護師が、長期休みを取って、ケニアでキリンを見てきたなんてこともありましたし、私は趣味がバイクなのですが、去年は北海道でツーリングに、今年は沖縄に行きました!!

また、保育の質を高めるために、研修にはどんどん行ってもらいたいと思っているんですね。私が提示した研修を土日に受講した場合は、もちろん研修費も出しますし、振休も取ってもらっています。

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ここで、前編は終了となります。

「後編」では、複数園になったヘレンの取組みや、ヘレンで働くにあたっての「やりがい」や「楽しさ」について語っています。

記事はこちらから!

現場の声ひとつひとつが、理想の園につながる ー「障害児保育」という新しい当たり前を目指す、ヘレン園長の座談会【後編】


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スゴいい保育編集部
「スゴいい保育」を通じて保育という仕事の素晴らしさを伝えていくことにチャレンジするチーム。日本中の色んな「スゴい!」「いい!」保育を日々探し、みなさんに紹介します。

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