スゴいい保育園
カフェがある保育園は未来への挑戦。茶々保育園が考える保育の未来とは【3/3】
「スゴいい保育」の新コーナー『スゴいい保育園』。読者のみなさんに希望と驚きをお届けする保育を紹介します。今回は、「オトナな保育」を実践する茶々保育園グループ「茶々むさしこすぎ保育園」へ見学に行かせていただきました!「オトナな保育園」の真意をたっぷり伺いました。
”オトナな保育園”を浸透させるためにチャレンジしたこととは?
“オトナな保育園”とは、子どもを必要以上に子ども扱いせず、同じ人間として対等に接するという茶々保育園グループのコンセプトです。それを実現するための保育スタッフとの関わりとはどのようなものだったのでしょうか。”オトナな保育”を実施する茶々保育園グループの理事長・CEO 迫田 健太郎(さこだ けんたろう)さんに「茶々むさしこすぎ保育園」併設の「ちゃちゃカフェ」にて話を伺いました。
前回の記事はこちら
【1/3】”オトナな保育園”ってなんだ!?保育業界大注目の茶々保育園のヒミツに迫る!
【2/3】茶々保育園の保育現場に潜入!オトナな保育園の現場とは!?
●訪問園プロフィール
『茶々保育園グループ』とは?
「オトナな保育園」をコンセプトに関東近県12園(2017年4月から14園)を展開する保育園グループ。1979年、埼玉県入間市の”茶畑の真ん中”に第一号園を設立以降、”丁寧に寄り添い、子どもを一人の人間として尊重する”という理念を元に、独自のモノサシを持ち保育を行っている。厚生労働省イクメンプロジェクトのメンバーでもある『おちまさと氏』をチーフブランディングオフィサーに迎え、地域社会との交流を目的とした「ちゃちゃカフェ」の設置や、保育士の地位向上に向けた「オリジナルウエア開発」「スタッフ名刺制度の導入」など、保育業界を変える新たな取組を積極的に行う。2017年4月には、国家戦略特区制度を活用した日本初の都市公園内保育園『茶々そしがやこうえん保育園』の開園を予定。
●インタビュイープロフィール
社会福祉法人あすみ福祉会 茶々保育園グループ
理事長・CEO 迫田 健太郎(さこだ けんたろう)さん
立教大学経済学部を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現・株式会社アクセンチュア)へ入社。その後、保育業界に転身し、現在は茶々保育園グループ(社会福祉法人あすみ福祉会)の理事長に就任。前職のコンサルティングの経験を活かし、自ら14か所の保育施設の経営を行う。
社会福祉法人あすみ福祉会 茶々保育園グループ
http://chacha.or.jp
▲右手のガラス張りにあるのが「ちゃちゃカフェ」
▲本当にカフェのような雰囲気です。実際はお金を払うカフェではなく、地域の人に解放されているフリースペースとして運用されています。
ー”オトナな保育園”の意図や実際の施設を見学させていただき、保育スタッフによって至る所にコンセプトが体現されているなというのを感じたのですが、コンセプトを実際に保育スタッフに浸透させるのはとても大変だと思います。どのような取り組みを行っていったのでしょうか。
迫田:今も地道に取り組んでいるところですが、最初は”オトナな保育園”というコンセプトとパンフレット一枚目のエッセイ「子どもに一番近い”社会人”」を渡して具体的にはどんな社会人かを各自考えてもらうということをしました。
▲茶々グループのパンフレット1ページ目に掲載されているエッセイ
”保育園は小さな子どもが育つ場所です。
しかし”幼稚な場所”にする必要はないと私たちは考えます。
子どもは、大人の想像以上に能力や感性を備えている。
そして大人も、充実した時間を過ごせたり、成長できてもいい。
保育ってこういうこと。保育園ってこういう場所。
そんな枠を外したら、新しい保育園の姿が見えてきました。”
迫田:子どもにとって保育士は、親の次に会う社会人ですよっていうメッセージです。
これについてこちらから事細かに説明をするのではなく、自分たちで考えてもらう。そしてそれを自分たちの言葉でプレゼンをしてもらうということをじっくりとやっていきました。
ープレゼンをさせるというのは保育業界で珍しいですよね。オリエンテーションをしたり、レクリエーションをしたりというのが多いように思います。
迫田:そうですね。研修や教育についての基本的な考え方なのですが、「アウトプット」することを徹底して行っています。何をするにしても自分たちで考えて、「アウトプット」を出してもらう。保育についても同様です。
保育のものさしになる「学ぶック」の作成
ー他にどのようなアウトプットがあるのでしょうか?
迫田:「学ぶック」という、我々が行う保育を体系的にまとめているファイルがあるのですが、これを保育スタッフで作成をしています。
我々保育事業者は国の定める「保育所保育指針」を保育の原則としてしっかりと理解し、実践しないといけませんが、すべての職員において理解が十分かといえばそうとはいえないのが実情です。ただ文章を読み込むだけでは難しいです。そのためほんの一例ですが、内容の共通理解を図るために、「保育所保育指針」のそれぞれの文章が、教育の五領域である「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」どれについて述べているものなのか、色分けを行って整理するというようなアウトプットを行っています。
▲茶々保育園グループが行う保育を体系的にまとめているファイル「学ぶック」
ーたしかに、ただ「読み込んで理解するように」と指示するよりも、「色分けをする」というアウトプットをしてもらうほうが何をすればいいかが明確ですね。自分たちで体系的にビジュアル化することでただ文章を読むよりも、理解が深まりそうです。
迫田:そうですね。これは我々の目指す保育の”見える化”を行っているようなもので、それは『保育所保育指針』や保育の原理原則を理解するための我々にとっての「保育のものさし」になっています。「保育のものさし」があればいま自分たちが行っている保育ががいいことなのかどうかをチェックすることが出来ますよね。ビジネス業界でよく使われる、PDCAサイクルの”C”(check)をすることができるようになるため、PDCAサイクル回すということが可能になります。
こういうアウトプットの積み重ねで「学ぶック」が年々改善されていくのですが、今年はそれを職員総出で一冊の本にまとめました。それが最大のアウトプットですね。
ーえ、実際に出版されたのですか?
迫田:そうです。宣伝みたいになってしまいますがこちらの本です(笑)
みんなで頑張って作ったので読んでもらえるとうれしいです。
『「自分でできる子」が育つ茶々式しつけメソッド』(主婦の友社)1,404円
保育園が淘汰されていく時代が来る
ー茶々保育園グループは「オリジナルウエア開発」や「スタッフ名刺制度の導入」など、保育業界を変える新たな取組を積極的に行っていますが、今後どのようなことをしていきたいですか?同じ保育事業者としてとても興味があります。
(オリジナルウェアや名刺制度については前回の記事にて:【1/3】”オトナな保育園”ってなんだ!?保育業界大注目の茶々保育園のヒミツに迫る!)
迫田:異業種とコラボレーションをしたいと思っています。保育業界ではない領域とのコラボレーションです。
ー例えばどのようなことでしょうか。
迫田:現在やっている「ちゃちゃマルシェ」はある意味、街とのコラボですよね。地域の人たちと保育園のコラボレーション。「ちゃちゃカフェ」もそうかもしれません。
(マルシェ・カフェについては前回の記事にて:【2/3】茶々保育園の保育現場に潜入!オトナな保育園の現場とは!?)
保育事業者としての保育はもちろん追求していきますが、それは当たり前にやるとして、保育業界ではない領域をとのコラボをやっていきたい。それが「食」かもしれないし、「遊び」かもしれない。
ーなぜそのようなことを行っていくのでしょうか?
迫田:今は保育所の不足による待機児童が社会問題になっていますが、長い目で見ると少子化の影響で保育園が余るという未来がいつかきます。それは保育園が淘汰されていく未来です。その時に選ばれる保育園であるためには従来の保育だけではない何かを模索していく必要があると思っています。おそらくそれは、子ども、親、地域、保育者にとっていいものである必要があります。
ー「ちゃちゃカフェ」も「ちゃちゃマルシェ」もたしかにそうなっていますね。
迫田:ありがたいことにそうですね。ただ、カフェも設備を作ればいい、マルシェもイベントをやればいいということではないと思っていて、最後は「施設・設備」や「サービス」ではなく、やっぱり「人」だと思うんですよね。我々が追求している「理念」を実践できている「人」、「理念」で繋がっていられる「人」。そこが一番大事だと思っています。
ーそれが”オトナな保育園”ということなんですね。
迫田:そうですね。まだまだこれからですが。地道にやっていきます。
茶々保育園グループのここがスゴいい
「ちゃちゃカフェ」の設置や「オリジナルウエア開発」「スタッフ名刺制度の導入」など、保育業界を変える新たな取組を積極的に行っている茶々保育園グループ。そこには保育に対する、しっかりとした理念がありました。すべてを同じように出来るわけではありませんがこんなスゴいいところは真似できるかもしれません。
1.保育スタッフに社会人として当たり前の名刺をつくってみよう!
名刺を持つということだけで、社会人として意識が変わることがあります。インターネットで名刺の発注が可能なサービスなどもありますのでまずは作ってみて意識に違いが出るか試してみるのはどうでしょうか。
2.教育・研修を行う時は積極的にアウトプットを!
レクリエーションを行う、講演を聞くなど色々な研修はありますが、大事なのは「アウトプット」。積極的にアウトプットを行うような研修を考えてみてはいかがでしょうか。
3.保育のものさしをつくろう!
保育事業者は保育所保育指針に従って保育を行いますが、それぞれの園が大事にしている保育指針もあります。それを全員で共通認識をもち、確認できるための、「保育のものさし」をつくりましょう。イラスト・図など見える化されているものがいいですね。
4.保育園を地域に開いてみよう!
何かと保育園と地域の関係に注目が集まりますが、お互いに「見えない」「知らない」ということが不安の原因かもしれません。積極的に地域との交流を持つことによってお互いの不安をなくしていきましょう。
お知らせ:迫田さん登壇イベントのご案内!
【4月19日はみんなの保育の日!】
保育関連業界で働く人、行政・政治、メディア、そして子育て中の人から普段子どもと関わる機会はない「と思い込んでいる」人まで、あらゆるステークホルダーが自分ごととして保育を考え、関わる場を生み出し、「子どもを社会みんなで育てる」ムーブメントを創り出していくスタートの日として制定された「みんなの保育の日」(※)。
4/19当日は、六本木ニコファーレにてイベントを開催します。
(入場無料/授乳&オムツ替えスペースもご用意しています)
詳細はこちら!
http://419.jp/
イベント内のこどもみらいラボ「地域で子どもを育てる」トークセッションにて迫田さんが登壇します。
迫田さんのお話を聞いてみたい!という方はぜひご参加を!
※イベント当日は、下記サイトにてニコニコ生放送も実施します
http://live.nicovideo.jp/watch/lv293012379
※4月19日が4(フォー)19(いく)であることから、同日を「みんなの保育の日」(※日本記念日協会に正式認定取得済)とし、イベントの開催日としました。
著者プロフィール
- スゴいい保育編集部
- 「スゴいい保育」を通じて保育という仕事の素晴らしさを伝えていくことにチャレンジするチーム。日本中の色んな「スゴい!」「いい!」保育を日々探し、みなさんに紹介します。