【前編】保育者が「子どもを”みる”」ってこういうこと!塀に囲われない幼稚園の、自由に遊ぶ子どもたちを”みる”りんごの木保育者の「子どもの見方」

【前編】保育者が「子どもを”みる”」ってこういうこと!塀に囲われない幼稚園の、自由に遊ぶ子どもたちを”みる”りんごの木保育者の「子どもの見方」

「スゴいい保育」の新コーナー『スゴいい保育園』。みなさまに希望と驚きを抱かせる保育を紹介します。今回は、「子どもの心により添う保育」を実践する「りんごの木子どもクラブ」へ見学へ行かせていただきました!2回にわたって訪問し、りんごの木の保育のエッセンスをたっぷりお聞きしてきました。

大人が過剰な心配で子どもの好奇心を阻害していませんか?

「鍵をかけていないと子どもたちを誘拐しに変質者がやってくるかもしれない」
「ルールだよと言っておいても勝手に外へ出ていっちゃう子どもがいるかもしれない」
保育者や親といった大人の目線から見ると、そう感じる方も多いでしょう。

一般的に保育所どこでもよく見られる、周りを囲う塀と子どもの手に届かないよう高い位置に設置された鍵。セキュリティの機能を果たし、大人の安心を生む必須アイテムです。ただ、大きく高い塀の中の子どもたちは、広い空を見ることができるのでしょうか?塀の外から聞こえた楽しげな音、何か惹かれるにおいに、好奇心を頼りに追ってみる経験をできるでしょうか。本当は、そんなことから子どもたちはいつだって冒険を見つけてきます。今回見学させていただいた「りんごの木」には園庭がありません。そのことについて尋ねてみると……。

『遊歩道や近くの公園、池でザリガニ釣り、畑など街全体に出ていって保育をしています。確かに子どもの声がうるさいと文句を言う人もたくさんいます。でもそんなの関係ありません。社会にはいろんな人がいます。紙ヒコーキを折って一緒に飛ばしてくれる大人がいたり、子どもの声ってだけでだめという人もいたりします。その環境のなかで子どもは育つんだと思って、保育をしています。社会の中の子どもなんだ、嫌いな人がいるのはいいし、それは構わないけど、こちらはそれを理解した上で遊ばせてもらいます』と語るのは「りんごの木」保育者の青山さん。

街全体、ひいては社会全体を園庭と考えていると言ってもいいかもしれません。どのような保育観からそれらを実現しているのか、どのような保育を実践しているのかお話を伺いました。


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訪問園プロフィール

「りんごの木」は、子どもに関するトータルな仕事をする場。個性豊かなスタッフがそれぞれに得意分野を活かして、保育から出版、セミナーやイベントまで、幅広い事業を展開しています。「りんごの木」の保育部門にあたる「りんごの木子どもクラブ」。横浜市都筑区内の3箇所に拠点を構え、1歳親子〜未就学児約100人が通う認可外保育施設として、子どもたちの育ちを見守っています。

インタビュイープロフィール


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保育者・青山誠さん(写真中央)
「りんごの木」保育者。大学時代のボランティアでの子どもとの出会いをきっかけに、芸術学部文芸学科卒業後すぐ、幼稚園に就職。保育園での勤務を経て、2007年(?)より現職。保育の他に執筆、イベント企画など幅広く子どもに関わる事業を展開中。著書に『子どもたちのミーティング〜りんごの木の保育実践から』(柴田愛子との共著/りんごの木)、絵本『あかいボールをさがしています』(文・青山誠、絵・くせさなえ/小学館)など。
(引用元;グリーンズ企画)

登園も、遊びも自分次第、子どもたちが考える

「りんごの木」では、子どもたちは『自由登園』です。登園時間もきっちり決まっておらず、それぞれ自由に登園してきます。子どもたちが着る服も、履くものも自由。見学した日は、よく晴れた暑い日でしたが、雪駄で登園する子が大多数。中には、裸足で登園してきた子もいました(もちろん、お母さんが靴を持っていました)。

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「踏まれたら、怪我をしてしまうのでは?」「お散歩に行く時は、運動靴の方がいいのでは?」ついつい親目線で、いろいろと気になってしまいますが、これは大人の常識の押しつけ。雪駄で遊んで、脱げてしまうのが気になるなら、その子は次からは運動靴で登園するようになるかもしれません。足を踏まれて怪我をしたら、次からは踏まれても大丈夫な靴を履いてくるかもしれません。

大人がルールを押しつけるのではなく、子ども達が経験し、考えるステップがとても重要だと感じました。

登園した後どこで遊ぶのかは、子ども達が自分で決めます。「りんごの木」園の前の広場で遊ぶもよし、遊歩道で遊ぶもよし。部屋の中でかくれんぼをしたり、園の横に置いたプールで遊んだり……などなど。


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遊ぶ場所を自分たちで決めた子どもたちは、とにかく全力で遊んでいました。それだけでなく、保育者も、子どもと一緒に全力で遊んでいたのが印象的でした。大人だから、保育者だからただ見守る、ではなく、子どもたちから提案された遊びで、一緒に試行錯誤していました。これが「子どもの心により添う保育」か、と清々しい気持ちになりました。大人も自由、子どもも自由。それが、「りんごの木」のモットーを支えています。

毎日行われる『子どもたちのミーティング』

11時過ぎくらいになると、誰からともなく、遊びの片付けが始まります。「りんごの木」の一日の流れは、きちんと決まっていませんが、11時半頃から『子どもたちのミーティング』を行うことだけは決まっています。「子どものことは、子どもに聞く」徹底した子どもの心により添う保育の実践です。

「りんごの木」では自由登園なので、みんな登園時間がばらばらです。だからこの時間が、みんなが顔を合わせる最初の時間でもあります。顔を見ながら、出席を取り、一言二言言葉を交わします。めいっぱい遊んだ後のこの時間を、「りんごの木」では、とても大切にしています。

『子どもたちのミーティング』とは?
・4歳と5歳の子ども達が参加し、様々なテーマについてざっくばらんに話し合います。
・話し合うテーマはいろいろ。遊びの工夫について話すこともあれば、行事について話し合うこともあります。
・時間は、15分くらいで終わってしまう日もあれば、1時間みっちりやることも。
・ミーティングでは、保育者がファシリテーターとなり、話し合いを進めます。
・このミーティングは
 ①誰かが意見を言っている時は聞くこと
 ②Yes,Noで答えられる質問は「パス」を使って後から答えることもできる(必ずしも答える義務はない)
 ③参加する(=その場にいる、傾聴する)
ということをみんな意識しています。

それまで一緒に全力で遊んでいた保育者は、さっきとは一転、「ちゃんと座ろう」「意見を言ってる時は聞くよ」と言うべきことをしっかり言います。

ミーティングで出た、『〜〜君がいると嫌な気持ちになる』という言葉に対して……

私たちが見学に行ったこの日のテーマは、大人でも考え込んでしまうものでした。

その日は、風邪で休む子が多かったことから、「誰が休むと悲しい気持ちになるか」という話からはじまり、そこから「誰がいると嬉しいか」と話は展開していきました。ミーティングの中では、大人からすると「言われた方はかわいそうなんじゃないか」と思うような率直な意見も出ました。(例えば、AちゃんはBちゃんがいると嬉しいけど、BちゃんはAちゃんがいなくても平気、といったような意見です。)

そんな中、A君が、『B君がいると嫌な気持ちになる』という発言をしました。

※オレンジが保育者、青が子ども達の発言です。

ー「なぜB君が嫌なの?」
A君「だって、乱暴するから」

ー「(B君に)なぜA君に乱暴をするの?」
B君「A君のこと好きなんだけど、戦いごっこするとA君泣いちゃうの」

ー「どうして戦いごっこするとA君泣いちゃうの?」
A君「だってB君、パンチやキックして痛いんだもん」

このとき、B君に、A君が嫌がってるからそういうことしちゃダメだよ、というのは簡単です。でも、ここでは大人はファシリテーター。子ども同士で話し合いを続けます。

「A君、B君と遊ぶのやめたら?」
「B君は戦いごっこしなきゃいいんだよ」
「A君、B君に今度やられたら、もっと強いC君に助けてもらったら?」

A君も、B君のことが嫌いではないので、ついつい遊んでしまうのだといいます。そこで出てきた「誰かに助けてもらう」案。皆さんだったらどう思いますか?

保育者がみんなに質問します。

ー「誰かに助けてもらうのはあり?なし?」

これは、YesかNoで答えられる質問なので、全員がしっかり考え発言します。

「あり!」「なし」「なし」「あり・・・かなぁ?」「たまにあり」

など、YesかNoですがいろいろな意見が出てきました。

「あり」の人の意見、「なし」の人の意見、「条件つき」の人の意見をそれぞれ聞きます。どれも正しく、どれかひとつが正解ではない。でもこの問題についてみんなで考えることが大切です。

「4歳の子なら助けるけど、5歳の子は自分で立ち向かうほうがいい」
「自分のことなんだから、自分で解決したほうがいい」
「泣くくらい乱暴なら助けてあげたほうがいい」

時間は12時半近く。お腹もすく頃です。でも、全員が一生懸命にこの問題を考えています。『りんごの木』の『ミーティング』では、結論を出すことをゴールにはしていません。

今回も結論づけることはしていませんでしたが、最終的にはある子が出した「手加減を覚える」という意見に、「そうすれば遊ぶのをやめる必要ないね!」「僕も最初はおもいっきりやっちゃってたかも」と子ども達が賛同し、1時間に及んだ『ミーティング』は終わりました。

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未就学児はともすれば、子ども(赤ちゃん)扱いされがちですが、このミーティングを見て、子どもの可能性は無限大で、大人が決めつけてはいけない、という思いを強くしました。

「りんごの木」では、『子どもの心により添う保育』を徹底的に実現しています。大人が決めつけるのではなく、大人が与えるのでもなく、子どもの考えや、やりたい気持ちを大切にしていました。あるがままの子どもの気持ち、心を受け止め、みんなで考える。これを日々行っています。後編ではりんごの木の保育観についてさらに深くお話を伺っていきます。

後編はこちら

保育者が「子どもを”みる”」ってこういうこと!塀に囲われない幼稚園の、自由に遊ぶ子どもたちを”みる”りんごの木保育者の「子どもの見方」(後編)


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著者プロフィール

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スゴいい保育編集部
「スゴいい保育」を通じて保育という仕事の素晴らしさを伝えていくことにチャレンジするチーム。日本中の色んな「スゴい!」「いい!」保育を日々探し、みなさんに紹介します。

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