疲弊する保育者を救い、保育の質を上げるIT活用~キッズリーが変えた家族のコミュニケーション~

疲弊する保育者を救い、保育の質を上げるIT活用~キッズリーが変えた家族のコミュニケーション~

「深化」と「進化」を続ける保育の今をさぐる。

社会や制度の変化とともに、目まぐるしいスピードで「シンカ」する保育。

保育そして近接領域の挑戦者との対話を通して、まだ見ぬ保育のすがたを探ります。

今回のテーマは「IT」。理想の保育の形を実現するために導入されたITが保育の「質」にもたらした影響とは…?保護者と保育園のコミュニケーションサービス「kidsly(キッズリー)」の開発者であるリクルートマーケティングパートナーズの森脇潤一さんと、産学共同プロジェクトのパートナーでもあり、保育現場におけるITを長年研究してきた鎌倉女子大学の小泉裕子教授に現場で起きた変化を伺いました。

第一回:「ITが「保育」を変える!業務効率化の先にある理想の形とは?」

―多様化する保育に疲弊する保育者

―保育業界に「変われない」ジレンマがある一方で保育の質を上げたり、業務の負担を軽減するということが「待ったなし」できていると感じます。

小泉:本当にその通りです。現状を変えられないという理由のひとつに、延長保育や休日保育、地域の育児期家族へのサポートなど、多様化する保育に取り組まなければいけないという課題があります。子どもたちのためにはとてもいいのですけれども、現状の保育現場でそれを実施するのはとても難しくて、一番負担に感じているのは保育者です。
保育者たちは、親を支えるために連絡帳等を使用していねいで専門的な助言をしたいと思いつつも、あまりにも多様なニーズに応えきれず、結局連絡帳などがおろそかになってしまって、どんどん形だけ整えてくという方法になってしまっている。もちろん本人たちもそれでいいと思ってはいないんです。本当は一つ一つ大事にしたい、一人ひとりの様子を保護者に丁寧に伝えたいと思っているけれど、やはり対応しなければならない量的負担が多いですから。
保護者に伝えるべき量と質を、誰かがそれを整理しなきゃいけないのです。それを今、キッズリーでちょっと整理してみましょうよ、と提案しているのだと思います。やってみたらこれまでより量が3分の1になって楽になるでしょう、単純な量的負担の軽減のみならず、何が楽になり、何が変わったのかという保育本来の役割を保育者が振り返る良い機会にもなります。

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森脇:噂ですが、保育学科だけはいまだにレポートを手書きで提出するように義務付けられていると聞いたことがあります。本当だとしたら大学側が変わらなければいけませんよね。

小泉:その通りです。ちょっと前までは大学でもレポートの手書きは原則でした。指導計画とか部分実習指導案とかフォーマットはあるけれども全部手書きなんです。近年は現場からも「ファイルで提出してくれてもいい」と助言するところがでてきているから、大学側がシフトしなきゃいけない時なのですね。
やはり保育者は情緒とか感性を大事にする傾向があるんですよね。そこに機械とかコンピュータを使うとやっぱり「保育者の大切な思いが伝わらない」と疑心しているところがあり「心のこもった手書きが一番伝わる」という考え方が存在しているのは事実です。

―ITがコミュニケーションを変える

森脇:実は保育士の業務の効率アップはあとから出てきた話で、最初は保育士と保護者の関係性をよくするためにお子さんの情報をみんなでシェアできるようにしたかったんです。保護者は子どもを保育園に長時間預けるから、不安な気持ちを持つと思うんです。日中どういう活動しているのかとか、保育園で友達作ってうまくやっているんだろうかって。でも、きちんと伝われば保育園に預けることを否定的に見ることはなくなります。保育園側は包み隠さず保護者にどんな様子かをもっともっと伝えていってあげたらいいですよ、手伝いますよ、というのが僕らのテーマです。

―連絡帳もですが、お迎え時に先生は一生懸命お話してくれようとしても、子どもがいて落ち着いて聞けなかったりとか。保育者側もコミュニケーションに悩んでいたりするんでしょうね。

小泉送り迎えのシーンは、「〇〇ちゃん今日もいい子でいましたよ」と親を安心させるところから始まります。「こんな特別なことがありましたよ」、や「すごいチャレンジをしたんですよ」、など子どもの意欲や心情の変化を伝える場合は意識しないと、伝えきれない。それが一日の習慣として定着している保育者もいると思いますが、そこに時間をかけると送迎の時間だけで1時間以上かかってしまいます。伝えたい量にとらわれるとそれは保護者にとっても時間の負担になり、かえって逆効果にもなりかねません。お互いに「聞きたい・伝えたい」という気持ちはもちろんあると思いますが、限られた時間の中で情報を分かち合うのは、難しいと思います。

森脇:キッズリーはそれを解決する機能を持っています。連絡帳はお昼休みの時間に保育士が書くんですけど、お迎えの1時間前に自動的に送信されるようになっています。18時にお迎えに来るお母さんには17時にレポートが届く仕組みです。
なぜ1時間前かというと、ここがミソで、お迎えに来る間に自分の子どもが今日どうだったかという事を事前に把握してくることができます。そうすると保育士や子どもとパパ・ママの会話も変わりますよ。「今日どうだった?」という漠然とした質問から、保育の内容があらかじめわかっているおかげでより具体的になります。

キッズリーの連絡イメージ

―愛情だけで子どもの発達を判断するのは難しい

小泉:保育士側からすると、なかなか解決できなかった問題も解決できる可能性があります。それは子どもの発達を伝えるとき。保護者が子どもを見る眼差しって専門家ではないけれども、愛情だけは誰にも負けないという自負がある。ただし、愛情だけで見ていると、発達を見る眼差しは偏ってしまうことが多いんです。
保護者はどうしても「できたの?できなかったの?」と結果だけを問い詰めたりするのですけれども、子どもの発達って結果だけじゃなくて、そこまでのプロセスだったり、本人の意欲だったりを見なくてはいけません。保育者たちはそれを理解していますが、親は必ずしも同じことを理解はしているわけではありません。
そこで、保育士は保護者に発達のプロセスを地道に伝えなければならないのです。たとえば、キッズリーの写真やレポートの機能を使えば、毎日ていねいに「こういうのが発達を見るってことなんだな」とわかるまで伝えられるし、習慣化できる。これはすごい仕掛けなんですね。

森脇:そうですね。プロセスを伝え続けることで親の意識も変わるので、保育士にお子さんの様子を伝えたいという気持ちが醸成されてきます。たとえばキッズリーでは、保護者からも子どもの様子を写真付きで園に送れます。休み中の様子を先生にちゃんと伝えたいと思うのか、月曜日はその写真が増えるんですよ。土日の子どもたちの活動を知れるので、保育士も喜びます。これもプロセスの共有になりますよね。
ノートの連絡帳に比べて保護者が書いてくる内容が一気に増えたという声も多いです。ノートだとコメント3行くらいだった保護者が、キッズリーだと内容をもっと深めて書いてくれるようになったという例がいくつか聞かれます。あとはパパが書くようになったりとか。お父さんはこれまで保育園で子どもに何が起こっているかまったく知らなかったのに、今や毎日保育園からレポートが届くから、夕方に楽しみに待っているらしいですよ。家族のコミュニケーションが変わりましたっていう声も多いですね。

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小泉:すごくわかります。これまでお父さんは、子どもの園での様子はお母さんから聞くしかなかったという家庭も多いです。でも一方的に聞くって結構耐えられないことありませんか?楽しく話してくれてもその場にいない人にしてみればイメージしにくく、わかりづらいことが多いと思います。お父さんもお母さんと同じ情報をシェアできていれば聞くのも苦ではないし、質問も出てくる。中にはお父さんの子育て観の方が立派じゃないと思うこともあったりします。つい先日も「ご主人の子どもの見方や意見は素晴らしいですね」とお母さんに話したら、涙を流して喜んでくださいました。夫婦でわが子に対する見方をすり合わせ、意見を交換することで子育てを共有する喜びってありますよね。

森脇:うちの新卒の男性社員がキッズリーの営業をしながら、「森脇さん、これ日本の離婚率を下げますよ」って言うんですよ。保育園に子どもが行く時期ってやっぱりバタバタした生活でしんどい。こういう時期も一緒に情報共有しながら乗り越えたという経験があると、強固な関係性になっていくのではと。僕もハッとしましたね、

第三回へ続く

著者プロフィール

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スゴいい保育編集部
「スゴいい保育」を通じて保育という仕事の素晴らしさを伝えていくことにチャレンジするチーム。日本中の色んな「スゴい!」「いい!」保育を日々探し、みなさんに紹介します。

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