【フランス発】日本とフランス、保育・教育の常識ココが違う ~学校教育、習慣編~

【フランス発】日本とフランス、保育・教育の常識ココが違う ~学校教育、習慣編~

前回(【フランス発】日本とフランス、保育・教育の常識ココが違う ~衛生面編~)に続いて、今回ではフランスの教育や習慣の側面からココが違う!という常識を紹介します。

学校は「教育の場」。掃除をみんなでしようという公共衛生や規律がなく、個人主義徹底!


前回、一般的に公共物をキレイに使う、キレイにするという感覚がない人が多いと指摘しましたが、そうした公共物への配慮の欠如は、おそらく教育とも無関係ではありません。例えば、小中学校などで、子どもが掃除をする時間というものはありません。つまり、教育の中に「みんなで使うものだから、みんなできれいにする」という意識を育むということがなく、掃除は学校の「清掃員」の仕事です。それは学校の外でも同じことで、路上のポイ捨てにしてもトイレの汚さにしても、無意識の内に自分とは無関係のことだと考えているようです。フランスは個人主義の国だと言われますが、自分は自分、他人は他人、という個人主義の悪い側面だと言えます。

日本の学校教育では当たり前の「掃除の時間」は、フランス人に話をすると、賞賛する人が多かったですが、逆に「学校で子どもに掃除をさせるなんて!」という意見も少なくありません。学校は、歌を歌い、絵を書き、何かを作ったり、友達と遊んだり、そして勉強をするところで、教師はそれを教える人、というのが教師のプロフェッショナルな意識の根底にあります。そのため、掃除の指導だなんて教師の仕事の範疇外であると考えられるのは最もなことです。

幼稚園でも、先生は教室内での教育(お絵かき、歌、カードや粘土遊びなど)に従事していますが、食事や屋外での遊びには別の担当者がいます。

公立の教員は、保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校でも、大体同じようなメンタリティで仕事をしています。そのため、手洗いの徹底だとか、歯磨き、トイレでのおしりふき、そうしたことは「仕事外」ということになります。教育空間で衛生意識を身につけるという発想がないわけですが、そういうことは「家庭で身につけるべきこと」だとハッキリ線が引かれているとも言えます。

一日の大部分で過ごす学校の中で、規律教育や生活指導がないということの影響は大きいと思います。もっとも、日本の場合は衛生に関することだけでなく、集団行動全般に関わる規律についても教師の負担があります。日本にはあってフランスにはないことを考えてみると…

  • 入学式、卒業式、運動会、合唱大会、全校朝礼等の行事で行なわれる整列
  • ユニフォーム(みんな同じの制服や体操着、上履きなど)
  • 生徒会や委員会、部活

賛否はともかく、これらには社会訓練的な要素もあり、一定のルールに従った全体行動という側面があります。これを否定的にとらえると、規律的な人間を作る「軍隊」や「工場」を連想させるものであり、フランスのように「自由」(フランス革命のスローガン、「自由・平等・博愛」の第一原理)が至上価値である国では、「自由の抑制」とも考えられます。

それでも、フランスの学校では規律や忍耐を子どもに課す場面もあるのですが、それは教育的目的というよりも、少数の教員が多数の子どもたちを相手にするための方途で、それも自由主義者の目には「軍隊式」だと映るようです。限りなく子どもたちに自由を与えるという方針を取る場合、どんなことであれ子どもの意志に反することを子どもに強いるようなことがあれば「軍隊じゃないんだから!」ということになるわけですが、子どもたちに自由を与えるにも、やり方を考え、環境を作るということがなければ、やりたい放題でわがままな子どもになりかねません。

フランスの子どものベビーカー卒業年齢は◯歳??

衛生・規律という話題からは少し逸れますが、育児や教育に関して文化的な考え方の違いで驚かされたことで、次のようなことがあります。


<おしゃぶり、ベビーカーの卒業年齢が高い> 幼稚園に通う子どもであれば、まだおしゃぶり、ベビーカーが必需品であるという人はたくさんいます。それどころか、小学生になってもベビーカーに乗っている子どもも珍しくありません。親にとっては楽ですし、同時に子どもたちの「自由」でもあります。粉ミルクも36ヶ月まであり、4歳や5歳になっても飲み物を哺乳瓶で飲んでいる子も。

<乳幼児の食事にお米はNG> フランスでお米といえば、インド、タイ、中国、イタリア、フランスのお米です。日本人のように炊飯器を使う人もいますが、大量のお湯で「茹でる」パスタと同じ調理法で、最後にザルで水切りして食べるというというのが一般的な食べ方です。お米の質も日本米のような粘りがないのでボソボソした感じですが、乳幼児期の食事に不向きな理由は「便秘になるから」ということです。日本では「◯倍がゆ」が基本ですが、調理法も米の種類も違うため、フランスでは「乳幼児にはお米はNG」と考えられています。

<寝る時は人形が必需品> いつも自分が持っているもので、安心感を与えるという理由から、フランスでは知らない人はいないというくらい有名な精神科医フランソワーズ・ドルトによって推奨されました。これが一般的に受け入れられ、保育園や一時預かり所、病院に行く時などは、必ず持参するように言われます。

<寝る時は赤ちゃんの時から個室> 子どもの独立心を育むためで、親と一緒に寝ていると、甘えん坊、依存が強い子どもになると昔から考えられています。そのため、子どもが生まれるとなるとすぐに子ども部屋を用意しなければなりません。しかしこれは科学的根拠に乏しく疑わしいものです。フランス人の子どもを見ていると、むしろ甘えん坊や依存や強い子が多いですし(おしゃぶりやベビーカーの例)、子ども部屋以前にしつけ方や接し方の問題のように思えます。また、これは夫婦が自分たちのプライベート空間を維持するための、大人の都合だという見方もあります。

<子どもにも愛称で> 恋人同士や夫婦間で互いにシェリー[chéri(e)、愛しい人]とかモナムール[mon amour、愛する人]と呼び合うフランス人。

子どもに対しても同じで、モンプッサン[mon poussin、私のヒヨコちゃん]とか、数え切れないほどの愛称が使われています。なかにはマピュッス[ma puce]やモンピュスロン[mon puceron]と呼ぶ人も(ma,monは英語のmyと同じで「私の」、puceは「ノミ」、puceronは「アブラムシ」)。一生懸命考えた名前が使われるのは怒る時や人前くらいか…。

フランスの先生の「仕事」の範囲はかなり限定的。規律教育や生活指導は範囲外。

学校(保育園から中学校まで)において、先生の仕事とは何でしょうか。その範囲は日本とフランスでは大きく異なり、また先生に望まれていることさえも同じではないのかもしれません。「仕事」を意味するフランス語travailは、第一に「骨の折れる作業」「苦役」で、「拷問」という意味もあります。収入を得るために自らに課せられたやむを得ぬ労働なのであって、合理的に最低限度に済ますことができる仕事が良い仕事ということになります。

先生の仕事というのも、そうした観点から制限されたものとなり、日本と比べるとかなり限定的なものであると言えます。先生であろうと土日は完全オフであり、ヴァカンスもあれば有給休暇もしっかり消化し、ストライキも行ないます。労働条件は法律でしっかり保護されているため、親がそれを超える要求をするようなこともありません。

日本では、細かいことも含めて規律教育や生活指導が先生の仕事の一部になっています。特に衛生意識に関しては、それがスゴイことであるということを、フランスにきてから気付かされました。

反対に、先生を一つの職業としてみると、日本の先生の負担の大きさもよくわかります。もちろん、日本人の衛生意識は「学校で習ったこと」で、学校で教えられなければ身につかないことだというわけではなく、家庭や社会的価値観によっても形成されたものです。それでも、幼少期の長い時間を過ごす学校が、単に「預ける・預かる」場所、「勉強する」場所であるだけでなく、規律や生活習慣も身につける場であるということの意義は大きいと思います。

保育に関して言えば、フランスの親保育所もそうですが、家庭的で、家庭の延長であるような保育所・保育園は、子どもが安心して健やかに過ごせる場所として素晴らしい空間であると思います。同時に、子どもの自由を尊重しつつ、規律や生活習慣についても考慮し、子育ての場でもあれば理想です。そのためには、親保育所のように積極的に親が運営に参加するのではなくとも、それでもやはり親たちと保育士との相互理解は重要なことではないでしょうか。

※関連書籍
◆じゃんぽ~る西『パリの迷い方』(集英社)、『パリ愛してるぜー』(飛鳥新社)
 パリに滞在した著者のフランス人あるある体験記。ムショワール(ポケットティッシュ)の話など、フランス人の仰天文化が満載。また、『モンプチ 嫁はフランス人』(祥伝社)では、フランス人の奥さんとの日本での育児体験などが描かれている。


林瑞絵『パリの子育て・親育て』(花伝社)
パリでの妊娠・出産・育児、シングルマザーの子育て記。フランソワーズ・ドルトの受容についてのコラムなど。


ミシェル・フーコー『監獄の誕生』(新潮社)
 歴史書・哲学書として日本でも有名。フランスでは『監視と処罰』の名で出版され、タイトルにインパクトがあるが、規律をめぐる考察は教育学や社会学の世界でもよく読まれている。


文:LIBELLULE

フランス在住9年目。パリ第12大学大学院修了、現在は日本語教師、翻訳、ライターなどの仕事をしながら、3児の父親として育児にも忙しい日々をおくっています。
 

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著者プロフィール

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世界・海外の保育チーム
世界・海外各国の「スゴいい」保育に目を向けることで、逆に日本の「スゴいい」保育を照らすことにチャレンジするチーム。今日明日も”世界・海外の保育チーム”はアンテナをピンと張り、海外の保育をみなさんに紹介します。

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