【フランス発】単なる託児施設ではない!子どもにとってよりよい保育空間を自分たちで作る「親保育所」

前回、フランスの「親保育所」というアソシエーション形態の制度を紹介しましたが、今回は親保育所の運営について、もう少し詳しく触れたいと思います。

前編はこちら

親保育所の運営はすべて、親たちが分担して行ないます。私たちの親保育所では児童数は20名で、役職・係も20あります。私の家族は、一昨年は「給与」担当で、親保育所が雇用している保育士6名、調理師1名、清掃人1名の給与を管理しました(計算等は会計士に依頼しています)。昨年は「生き物」係で、金魚の世話と庭の手入れでした。そして今年は、双子の娘を預けるため、担当も2つ受け持たなければなりません(兄弟を預ける場合も同様です)。

親保育所の一日

親保育所もその他の保育所や幼稚園と同様に、土曜日と日曜日が休みです。保育士は平日に1日の休みがあるので、各家庭に週あたり半日以上の保育当番があります。それでは次に、保育当番の仕事も含めて、親保育所の一日を見てみたいと思います。

8 :00~8 :30 開所準備(親1名)
オムツなどの備品のチェック、洗濯物の片づけ、テーブルやカーペット、おもちゃなど配置。仕事前のお父さんがやることも多いですね。

8 :15~ 登所開始
登所時間は9 時30分までということになっていますが、厳格ではないので、10時過ぎになってしまうということもよくあります(公立幼稚園の場合、8時30分を過ぎると入れてもらえません!)。

9:30~ 自由遊び
年齢毎の部屋に分かれ、子どもたちは好きなように、それぞれ好きなことをして遊びます。天気が良い日は庭で遊びますが、パリでは十分な敷地がないため、週に1回、近所の体育館にも行きます。ほかにもダンスの先生や手品師を呼んだり、消防署や博物館の見学に行ったりするイベントも毎月あります。

11:00~ 昼ごはん
昼ごはんのメニューは、週毎の当番が考え、食材の買い出しも当番の家庭がやります。昨年は私のような日本人のほか、オーストリア人、イタリア人、アメリカ人、スコットランド人など親の国籍もさまざまで、文化に配慮しつつバリエーションに富んだメニューになりました。フランスでは近年、有機食材志向が強く、ベジタリアンも増加しており、親保育所でも同様の傾向が強まっています。そのため、予算の関係で日本の食材や調味料を使う和食メニューは難しくなってきました。昼ごはんはテーブルを囲むスタイルですが、やはりフランス、前菜、主菜、デザート(果物・チーズ・ヨーグルト)の順番で、チーズは数種類の中から子どもたちが好きなものを選びます。

13: 00~ 昼寝
保育士によっていろいろで、全員一緒にベッドに連れて行く場合や、子どものペースに合わせて個別に寝かしつける場合もあります。子どもが昼寝をしている間に、保育当番の親は食器の片付けや洗濯などをします(保育士は保育に従事)。

15 :00~ おやつ
調理師や親が作る場合もあります。最近は「砂糖は有害」という考えがあり、砂糖ゼロのおやつを考えたりしていますが、基本的には果物のコンポートやヨーグルト、ビスケットやケーキなど、甘いものが多いです。

17:00~18:30  帰宅・閉所
仕事を終えた親たちが迎えに来ます。保育士も17時以降に順次帰宅し、最後は保育当番が片付けをして鍵を閉めます。その後、清掃人が室内の清掃をします。また年に2回、家族ごとに分担して大掃除を行ないます。

21:00~ 会議
月に一度、全体会議、役職会議、教育会議がそれぞれあります。全体会議ではすべての親が参加。役職会議では運営の中心に関わる担当係の親のみが参加し、親保育所の運営上の諸問題を話し合います。教育会議は保育士と親とで、育児に関するさまざまな観点について理解を深める機会となります。議論好きで個々の主張が強いフランス人の集まりですから、会議はしばしば深夜にまで及びます。

また保育当番の不足や交代、何かが壊れたり、流行病に感染したりした時など、すぐに対策が必要な場合はメールで議論します。そのため、毎日何件ものメールのやりとりがあります。

親と保育士との議論や相互理解ですべてを決定!

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保育の現場には常に親の目があり、親の価値観を反映させることができる反面、家庭ごとに価値観の相違、また保育士の考えとの相違もあるため、しつけの仕方、食材、習慣をめぐって議論が尽きることはありません。例えば、私たちの家族は、それ以前では行なわれていなかった歯磨きと手洗いの習慣づけを提案したのですが、日本とは衛生観念が違うので最初は保育士でさえ、規則的に実践できていませんでした。

運営主体が親であるということで、形式的には親が経営者、保育士は雇用者ということになりますが、保育士に自律性がないというわけではありません。保育については保育士が主導的な立場にあり、親側から一方的に方針を押し付けるということはありません。諸々について常に親と保育士が話し合い、相互の了解のもとにすべてを決定します。保育に関しては保育のプロである保育士の判断に従いつつ、疑問があるときは話し合うというわけです。保育の常識や生活習慣が日本とフランスでは同じではないため、先の歯磨きや手洗いではないですが、こうしたことを改善していけるというのは、フランスで子育てする日本人としてはありがたいことだと思います。

実際に、他の親たちに聞いてみると、単なる託児施設ではなく、子どもにとってよりよい空間を自分たちで作ることができることが親保育所の利点だと言います。親側からの要望を保育所に押しつけるのではなく、改善するためにすべて自分たちでやるというのは相当な苦労を伴います。そのため、共働きであっても、多少は仕事の融通がきく職業に従事している親が多いです(研究者、アーティスト、ミュージシャンなど)。もちろん、負担が大きいことから途中で公立・私立の保育所に移る人もいますし、二人目の子どもは別の保育所にするという人もいます

親の関わりで、理想の保育の実現度、実践度が高い!親、保育士にとってよりよい保育を目指せるのが「スゴいい!」

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親保育所の運営は、親と保育士の連携なしではうまくいきません。例えば、公立や私立の保育園のお迎えの時には、子どもの一日と事務連絡が伝達できればよく、親同士の連帯も必須ではありません。究極的には親と保育士、親同士の関係は、子どもの送り迎えの際の挨拶だけで完結することも珍しくありません。その意味ではまさしく託児施設だとも言えます。

一方、親保育所の場合、そうした連絡を保育当番が行なうこともありますし、親が他の親の子どものこともよくわかっているため、育児に関する意見交換や世間話で会話が弾んでしまうこともしばしば。お迎えの時は、親と保育士の交流の場になっています。また、保育当番にも積極的な意味が見いだせます。集団生活の中で自分の子どもの成長を見ることができたり、他の子どもたちの保育を通じて保育のやり方を学んだり相対化してみることもできるからです。

親保育所では「子どもたちが安心できる」ということはとても大事です。毎週1回は自分の親と保育所で過ごし、その他の日も友達の親がいます。子どもを保育所に預ける時も、すぐに親が出て行ってしまうということはなく、子どもが落ち着くまで一緒に本を読むなどして、登所にも時間をかけます。また、入所最初の1週間は、親も一緒に保育所で過ごし、最初は2時間、翌日は食事もし、次に昼寝、それから半日、といった具合に徐々に慣れさせていくようにしています。他にも、常に子どもの「安心」に配慮していて、他の保育園との違いの一つです。

親保育所では、一部の庶務を除いて雑務の大半は親が行なうため、保育士は保育に専念できす。食事の後も、食器の片付けは親がやるので、保育士はすぐに子どもたちと昼寝の準備をすることができるなど、労働時間のほとんどを保育に費やすことができます。また保育士は、保育に導入したいことや実践したいことを実現できる自由度が他の保育施設よりも高いというのも特徴的です。

公立の場合は保育士がそのように積極的であることは求められていませんし、私立の場合は園長の方針があります。親保育所の場合、親と他の保育士の理解が前提ですが、保育士にとっての理想の保育を実践できる可能性が開かれていると言えます

親保育所にはモンテッソーリやシュタイナーのような独特な知的教育方法はありませんが、ピクラーの乳幼児教育を推奨する保育士、親保育所が多く、教育方針をめぐってしばしば参照されています。親たちの間でも賛否両論がありますが、子どもたちの自律的な欲求を大切にするという点では、モンテッソーリやシュタイナーにも通じるところがあり、あるいはまたルソーの自由主義的教育観の影響もあるのかもしれません。

子どもの保育に関して、親にとっては、「してほしいこと、 してほしくないこと」を、保育士にとっては「したいこと、したくないこと」を、話し合いを通じて決定し、よりよい保育の場の実現を目指していくという点が親保育所の「スゴいい」ところであり、苦労と引き換えにしても親保育所で過ごさせたいと思う理由なのだと思います。


文:LIBELLULE

フランス在住9年目。パリ第12大学大学院修了、現在は日本語教師、翻訳、ライターなどの仕事をしながら、3児の父親として育児にも忙しい日々をおくっています。
 

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世界・海外の保育チーム
世界・海外各国の「スゴいい」保育に目を向けることで、逆に日本の「スゴいい」保育を照らすことにチャレンジするチーム。今日明日も”世界・海外の保育チーム”はアンテナをピンと張り、海外の保育をみなさんに紹介します。

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