保育安全のかたち
【後編】乳児の食事による窒息事故に安定した背中の叩き方(動画あり)
「息ができない」ことで亡くなる事故が、保育現場でも毎年のように繰り返されています。前編では、窒息についての基礎知識、そして、マネキンでの練習のポイントをお伝えしてきました。後編では、保育現場で子どもの命を救えるように、現場で有効な窒息の解除方法をお伝えします。
Contents
[前編はこちら▶【前編】乳児の食事による窒息事故に安定した背中の叩き方(動画あり)]
食事による窒息の、安全な解除方法とは?
突然の事故に出くわすと冷静ではいられません。もし、発見した保育者が慌てていても、安全に「子どもの頭を低くして、安定して背中を叩ける」窒息解除する方法があります。以下のような、保育者自らの太ももを使った練習をお勧めします。
子どもの首を固定した状態で、大人の両方の太ももの上に直接、垂直(横抱き)に横たえます。腕の上に乗せることに比べると、子どもの脚の取り回しを気にせずに、安定した状態で素早く開始できます。次は腕の上でのメリットも忘れないように体位変換を行ないます。
救命マネキンに生身の子どもの姿を重ねて練習する
腕の上で体位変換するメリットは、背中を叩いたあと、子どもの頭と首、カラダを一体的に固定したままスムーズに仰向けにできることでした。太ももに子どもの体重を預けて、頭とカラダを一体的に返すことを意識して、腕で引き寄せながら返します。
太ももに子どものカラダを預けながら、カラダを一体的にひっくり返すことを意識することで、狭い太ももの上でも落とすことなく、大きな力に頼ることなく、安全に行なえます。なにより、救命マネキンに生身の子どもの姿を重ねて練習することが大切です。
逆さづりで乳児の窒息解除をやってはいけません
昔は、上記の動画のように、足首をつかんで乳児を逆さづりにして、背中を叩いてノドに詰まったものを吐かせる方法が、正しいと信じられてきました。しかし今は、動画で見た通り、激しく頭が揺さぶられて、子どもが首を痛め、子どもの脳を揺らして、たとえ窒息からは命が助かっても、子どもが機能障害を残す可能性の高い危険な方法だと見直されました。
背中をやさしくトントンしたのでは、重い窒息状態に対して全く効果が出ません。これまで動画で見てきたやり方こそ、子どもの頭や首を損傷させずに、安全に強く背中を叩くための方法です。保育現場では、まだまだ知られていないケースもあるようです。
保育現場で本当に子どもを救える力とするためには
マネキンに向かって形ばかりのものとして、やり方を覚えたのでは、保育現場では思うようにできません。乳児が食べている椅子には、机もついていて、抱きかかえようとしたら、カラダを抜き出せずに保育者がパニックになったケースもあります。
集団保育であれば、ひとりのお子さんの応急手当以外に、ほかの子どもの安全にも配慮する必要もあります。目の前の保育環境で実際に覚えた通りのことが本当にできるか、イメージをたくましくすることが、子どもの命を救うことにつながります。
保育のちょっといい話。ためになる話。知らなかった話。大事な話。お届けします。
著者プロフィール
- 遠藤登(保育安全のかたち)
- 保育の安全性を高め、重大な事故を防ぐために、保育現場における救命処置法ほか、ヒヤリハット分析「チャイルドSHELモデル(c-SHEL)」の教育と保育リスクマネジメントの研修を開催しています。主な著書、『保育救命-保育者のための安全安心ガイド-』(株式会社メイト)ほか。