選挙が終わったので、保育士の給与について考えてみた【ほいQ】

選挙が終わったので、保育士の給与について考えてみた【ほいQ】

保育のニュースがもっと身近に。今さら聞けない、保育制度にまつわる素朴なQ&Aを、わかりやすく解説します。
今回は、参院選でも争点になっていた、保育士の給与について。

保育士給与が選挙の争点に

7/10に行われた参議院選挙。与野党そろって、保育士給与の増額を政策として掲げていたのは、とても嬉しいことでした。民進党は月5万、共産党は月10万の処遇改善案を出していた中、改選定数121の全議席数の内、55席を獲得した自民党の公約は下記のとおりでした。

安心して子供を預けられるよう保育の質を高めます。保育士が将来への展望を持って働けるように、財源を確保して、総合的な対策を行います。
保育士について、これまで処遇を7%改善してきましたが、今後新たに2%改善し、技能、経験を積んだ職員については更なる処遇改善を行います。

出典:自由民主党HP

2%の処遇改善って?


月2%という数字、金額にすると…月に約6,000円とのこと。

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「政府は、不足する保育人材の確保を目指し、2017年度から保育士の給与を月額2%(約6000円)引き上げるのに加え、保育技術の高いベテラン保育士に給与を手厚く配分する方針を固めた。
最高で月給4万円程度上がる方向で調整する。安倍晋三首相は26日に開かれた政府の1億総活躍国民会議で「保育士と介護士については、競合他産業との賃金差がなくなるよう処遇改善を行う」と指示した。」(2016年4月26日:毎日新聞)
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「たった6,000円!?」と思ってよく見てみると、上記自民党公約の中に「処遇を7%改善してきました」とあるように、保育士の処遇は2012年度と比較すると月21,000円程度改善されているようです。

2013年度に、処遇改善のための「臨時特例事業」として、補助金(3%、月額約9,000円)が創設され、この補助金は、2014年度も継続された後、2015年度4月スタートの「子ども・子育て支援新制度」の中で、「公定価格」の中に恒久的に位置づけられています。
そして、残りの4%、12,000円分の増額は公務員給与が上がったことによる「公定価格」の改善分です。民間給与があがる→公務員給与があがる→(保育士の給与も上げなくちゃ)公定価格の見直しとなったわけです。

※「公定価格」とは・・・”国が定める基準により算定した費用”で、これによって園の運営費が決まります。認可保育所等を運営するにあたって、必要だと考えられる費用・金額で、地域や子どもたちの人数などで計算されています。休日保育や給食の提供をすることで加算されたりもします。

そして、今回提示されている「新たに2%改善」というのは、消費税以外を財源とした積み増し分のようですが、財源は明示されていません。

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出典:首相官邸HP待機児童対策~これからも、安心して子育てできる環境作りに取り組みます!~

保育士の給与が低いって本当?


さて、4年前より「月額21,000円あがった」と計算されている保育士の処遇ですが、他の職業と比べるとどうでしょうか?

保育士給与の平均値としては、厚労省のこんな数字が出ています。
保育士(公務員以外)の平均月給は、約21万9,000円
参考:「平成27年賃金構造基本統計調査

全産業の平均月給33万3,000円と比べると、10万円以上も低いことがわかります。


幼稚園教諭

介護士

保育士

全産業平均

平均月給

229,000

223,000

219,000

333,000

保育士転職サイトで独自にとったアンケートも。

マイナビ保育士「保育士に関する調査」のアンケートでは平均手取りは月18万円だとか。

保育士の処遇が悪い、給与が低いということが、ハッキリと数字で現れていますね。


公立保育士と私立保育士の年収差

ちなみに公立保育園の保育士は、地方公務員となるので、上記の給与調査の対象外です。平均的な公務員と同程度の収入になり、練馬区だと、平均月給は31万円とのこと。
参考:練馬区 平成27年度の公表内容


練馬区保育士

保育士

全産業平均

平均月給

311,000

219,000

333,000

仕事内容は同じなのに、給与水準に大きく差がありますね。
理由として、公立保育士は、勤続年数に応じた昇給があるほか、産育休の制度が整っており、勤続年数が長いことがあげられます。私立園の保育士は、園にもよりますが、勤続年数が短い、給与の上がり幅が小さい傾向があるようです。

公立保育士と私立保育士の給与を近づけるために、国からは私立の認可園に対して補助金が出ています。補助金は2階建てになっていて、1階の「基礎分」と2階の「処遇改善加算(賃金改善要件分)」という仕組みです。

職員の平均勤続年数が長い園に、たくさん補助が出るように、加算率が設定されています。ベテランの先生が多いと、人件費も高いと考えられるからです。また、2階部分の処遇改善加算については職員の処遇に全額支給することとされています。


本当にお給料は上がるの?


よく「保育園の補助金を増やしても、どうせ経営者の懐に入って、保育士の給与は変わらないんでしょ?」なんて意見が出ます。でも、補助金の使途が決められていれば、そんな心配はありません。現在も、「処遇改善加算」は上記のように、職員の処遇に全額支給することとされていますし、経営に携わる法人役員は支給対象外となっています。「保育士の給与をあげずに、補助金だけもらう」ことや「法人役員もしている園長先生が、自分のお給料だけあげる」なんてことはできない、うまい仕組みになっています。

今回の2%の処遇改善が、たとえばこの「処遇改善加算」の積み増しとなれば、私立認可保育園に勤務する保育士さんのお給料が上がる期待が持てますね。

ただ、処遇改善加算の補助金は、職員全員一律の加算を求めてはおらず、あくまでも人件費の総額です。同じ法人内であっても、「誰のお給料をいくらあげるか」は、自由に決めていいことになっているので、お給料が上がる人、上がらない人がいる可能性があります。

保育士の処遇改善は、まだ足りない

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出典:厚生労働省 保育士の平均賃金について

保育士不足の理由は、資格をもっているのに保育士として働いていない「潜在保育士」の多さ。保育士としての就業を希望しない理由の1番は、「賃金が希望と合わない」ことです。

自治体によっては、さらに独自の加算を設けているところもありますが、それでもまだ保育士は、他の職種に比べて低賃金です。まずは政府案の2%処遇改善を、財源を確保して、早期に、確実に実施したうえで、更なる改善が必要です。

2016年4月に実施された保育士740名へのアンケートでは、保育士の95%が、給与2%増では「足りない」と回答しています。
参考:ネクストビート「保育士バンク!」HPより

東京都は、2015年に国の補助に上乗せして保育士給与を補助する「キャリアアップ補助」を創設しました。特に、待機児童問題が深刻で、保育士が不足している地域では、自治体独自のこういった制度を拡充するなどの政策が必要不可欠です。


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