【アメリカ発】親が日常的に保育の質をチェック!ニーズも反映しやすい親共同保育園を徹底解剖!(後編)

親が保育園の経営主体の「Cooperative(Co-op/共同)保育園」。親が日常的に保育の質をチェックでき、親のニーズも反映しやすいユニークな親共同保育園の徹底解剖!前編につづいて、後編ではクラスの様子を紹介します。


Millbrae Nursery Schoolが77年間存続している理由のひとつは、学ぶ環境です。サンフランシスコベイエリアと呼ばれる、たくさんの移民が住む地域に位置していることで、さまざまな人種の子供たちが入学してきます。白人系だけでなく、アジア系、ヒスパニック系、アラブ系、アフリカン系…。この地域に住む人たちは、これを大変な魅力として捉えているようです。また、クラスに参加する親のほか、そこで雇われている専属の先生やスタッフも異なる人種が自然と集まっていて、他国から来た子供へのサポートもきめ細かく出来るのです。

クラスでは英語が中心ですが、家庭で異なる言語を話す子も多くいます。2か国語を理解している子供たちは少なくありません。渡米したての子供も多くいます。親たちは子供の言語の遅れを気にしますが、最初英語を理解していなくても、3ヵ月後くらいには話し始めるのを目の当たりにしてきました。子供の頭脳の明晰さに関心するばかりですが、これは多国籍の親、先生やスタッフ等、さまざまな人種と長い時間一緒に過ごすメリットと言えるでしょう。

このような環境であるため、クラスでは他の言語もさりげなく、プログラムに織り交ぜて、繰り返し使われます。メキシコ出身のNorma先生は、スペイン語での数え方やあいさつ、また同じ歌を英語とスペイン語で教えます。ベイエリアでは、スペイン語を話す家庭も多いことで、この言語に親しむことは大切な要素です。私も子供たちと一緒に、数やあいさつを覚えました。しかし、子供たちの覚えるスピードには追いつきません。

さらに、誰かの誕生日には、一緒にハッピーバースディの歌を英語、スペイン語、ロシア語、アラブ語で歌います。子供たちは、これらすべての歌の言葉を知っています。一度、日本語のハッピーバースディはどう歌うの?と聞かれ、不意をつかれたことがありました。今さらながらも、日本語のハッピーバースディの歌がほしいと強く思ったことはありませんでした。

また、いろいろな文化を含めた行事も紹介しています。例えば、国や文化が異なれば、クリスマスについての対応もさまざまで、実際、皆が祝うわけではありません。他の国の宗教や文化も尊敬するために、イスラム教のハヌカ、アフリカのクワンザのアクティビティも取り入れたり、新年にはチャイニーズニューイヤー、春にアイリッシュのセントパトリックデー等の文化を教え、クラフトを作ったり、モチーフを飾ったりしながら、世界中の文化にも触れています。

少しの工夫で創造性が育つクラス造り

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クラスでは、基本的に読書、算数、科学、スポーツなどを取り入れていますが、その他の注目する点として、子供の創造性を高めるするように設定されたエリアがあります。2歳児を受け持つMegan先生は、「一人ひとりの子供の個性や好みを把握する努力をしています。それぞれのスキルと脳と体がついていけるかを検証しながら対応します」と語る通り、Millbrae Nursery Schoolがめざすことは、密接に子供の個性と結びつけながら指導することです。

子供たちが十分に個性を発揮できるように、クラス内の区画もよくデザインされています。例えば、いろいろな衣装を身に着けて、さまざまなキャラクターになれるDramatic Play Area、キッチンやそのツール、プラスチックの食べ物、アイロン台等生活用品が設置されているHouse Keeping Area、簡単なツールを使って科学が経験できるScience Area、さまざまな本が置かれ、自由に読むことが出来るReading Area、好きな時にすきなだけ絵が描けるArt Areaでは、日替わりで、切る、貼る、塗る、ちぎる等を先生や親たちの指導の元に行われています。

さらに、さまざまな形のブロックで何か造る能力を磨くBlock Area、そして静かにくつろぐ場所Quiet Areaと、創造力を刺激する工夫がなされています。どこのエリアにも行きたくなければ、それでも構いません。Quiet Areaで先生やエイド、あるいは親とおしゃべりを楽しんでいればいいのです。無理をしません。いつも、さりげなく見守る十分な大人たちのアテンションも注がれています。

グループタイムでは、数や曜日を覚えたりする他、ディスカッションも行われます。例えば、その日の天気について話す時、「今日はどんな天気? 寒い?それとも暑い?」「外で遊ぶ時、ジャケットを着たほうがいい?」など、いくつか簡単な質問に対して、すぐにたくさんの小さな手が挙がります。人の前で話すのが苦手だった子でも、こういった環境でどんどんコミュニケーション能力を伸ばしてゆくのです。また、グループタイムには、床に座って輪になりますが、その際には子供たちの何人かは、クラスで働く大人の膝の上に座ったり、横にぴったりくっついたり、一人の大人に2、3人の子供が殺到して座っていることもあります。なんだか、家族のような光景です。

また、ハンズオンの経験もすばらしいものがあります。例えば、粘土を小麦粉等の材料を使って、スクラッチから子供たちと一緒に作ることは、とても楽しめるひと時となります。各材料を計量カップやスプーンを使い、子供の手で測らせます。子供が測り、混ぜる、色を加え、工程を見ながら、作業を完了させます。粘土は、季節に合わせて色を加えたり、きらきらパウダーを加えたり、楽しい粘土が出来上がります。そして、子供たちは、自分たちで作った、まだ暖かい出来立ての粘土を見て誇らしく思い、実際それを即座に使って楽しむ経験をするのです。「まだ暖かいね。出来立てだよ!」などと言いながら、子供たちの顔から好奇心の笑顔がこぼれます。

植物や虫などの観察も、ハンズオンで行われています。例えば、プレイグラウンドで毛虫を見つけると、それを観察かごにいれて、蝶になるまでを観察します。それについての絵本を皆で読んで話し合いもするのです。蝶になった後は、「さようなら、またね」と言って、蝶が飛んでゆくのを皆で見送ります。まだ、羽がうまく開かず、飛べない蝶がいれば、「かわいそうだね。どうしたんだろう」とそこでまた、ディスカッションが飛び交い、いろいろな意見を交わすのです。

感動したら、すぐ話せる親や大人がそばにいます。これもCo-opの魅力です。

共働きでのCo-op参加はしんどい!それでも続ける理由は・・・

親が子供の様子を見ることでき、親の意見を取り入れながら運営してゆくCo-opのプログラムはすばらしいのですが、時代の流れの影響を受けた問題が出てきています。

共働き夫婦が多いことで親がこのプログラムに十分対応できない家族もあるのです。特に、Millbrae Nursery Schoolが位置するカリフォルニア州ベイエリアと呼ばれる人気エリアでは多くの母親は働いており、Co-opの数も減少をたどり続けているのが現状です。

クラスをサポートする大人の傾向も少し変化しつつあります。親がCo-opに参加できない日は祖父母、兄弟姉妹などの親戚、さらに、追加でお金を払いNannyにその役目をお願いしたり、学校専属のエイドに依頼して、クラスでの親の役割を引き受けてもらう家族も増えてきています。あるいは、現在学校に通う男の子の父親のひとりは「共働きなので、確かに毎回ワークデーに親が参加するのはきつい。しかし妻と私は3時間のプログラムを半分ずつカバーしあい、なんとか続けています。続ける理由は、直接息子が学校でどんなふうに過ごすのかを見ることに価値を感じるから。実際、親の参加がこの学校の質を高めていると思います。」と語ります。Co-opの教育法に価値を見出し、共働きの夫婦が協力しあって子供を通わせている親たちもいます。

Co-opの魅力を知った親たちは、時代の流れに応じて何とか係われる方法を見つけ出しています。「可能な時に参加する」これが、今の時代に適した対処方法なのかもしれません。見方を変えれば、「親」であるかどうかにかかわらず、自分に注意をむけてくれる大人が多いことで、子供たちも安心して過ごせます。信頼できる親以外の大人との交流を通じて得ることも多く、それもメリットのひとつにも思えてきます。

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時代の流れで、Co-op形態を維持することが大変むずかしい中で、Millbrae Nursery Schoolは77年の歴史を歩み続け、今現在も変わりなく運営を続けています。その理由は、もちろん親たちの強い希望とサポートがありますが、他にもいくつか理由があります。

この保育園のディレクターを務めるBrigitan先生によれば、「通常、保育園では、先生と子供の割合は1:8から1:12ですが、こちらの保育園では先生の他、クラスをサポートする大人と子供の割合が1:5を保持しています。これなら、一人ひとりの個性を尊重した上で、きめ細やかに対応することが可能です。人件費等のコスト面がきになるところですが、政府から一部の運営資金をサポートしてもらっているため、理想的な環境を整えることが出来るのです。1:5の比率を維持しながら、授業料も比較的安く抑えられ、質のよい内容を保てます。」とのこと。さらに「政府は早期教育の重要性に気づき、それを強めることに大変な感心を向けるようになりました。そこで注目されたのは、この保育園で行われているCo-op内容です。それに価値を認め、維持させるためにサポートをしています。資金はプログラムの向上のほか、低所得家庭への授業料補助にも充てられます。くわえて、政府は、この保育園をCo-opの模範として、将来の子供たちの学びの場の架け橋となるように支持しています。」と付け加えました。

以前ほど、クラスに多くの時間参加できる親が減少していますが、うまく時代の流れ沿ってきたのは、この教育内容が認められて、それを支持する政府のサポートも大きく関連しているようです。

社会が大きく変わっても次世代に引き継ぐべきもの

Co-op保育園の始まりからの歴史を振り返ってみると、さまざまな時代の変遷を確かに潜り抜けてきたのだと実感します。社会的背景により大きな過渡期を迎えてはいますが、今だに健在であり、親からもそして政府からも支持されているMillbrae Nursery Schoolのような保育園の存在は、長年蓄積された確かな土台は簡単には崩れることがないこと証明しています。

これらは皆Co-opに係わった親たちが作り上げてきたものです。この保育園を卒業していった子供の親は、本当によくやってきたのです。当事者である親の「問題を解決したい」「子供の未来を明るいものにしたい」という強い要望があるからこそ、よりよいプログラムが開発され、ここまで育ってきたのだと思います。たとえ社会が大きく変わろうと、常に「純粋に子供の気持ち、そして将来を真剣に考えた」親や子供を愛する大人たちによるCo-op保育園をもっと多く、次世代へと受け継がれていってほしいと願ってやみません。

子供たちの将来は、私たちの将来でもあります。


文:Rika Wise

ライター&イラストレーター。
Co-op保育園のエイドとして長年従事。日本在住時は、英字新聞社にて、広告事業部の大使館窓口として、さらに日本在住の外国人読者向けにさまざまなイベントの企画・運営も行う。著書「ハムスターのきもち」ボイジャープレス

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世界・海外の保育チーム
世界・海外各国の「スゴいい」保育に目を向けることで、逆に日本の「スゴいい」保育を照らすことにチャレンジするチーム。今日明日も”世界・海外の保育チーム”はアンテナをピンと張り、海外の保育をみなさんに紹介します。

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